【洒落怖名作】危険な好奇心

801 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 03:48:18 ID:moTdWLP+O

小学生の頃、学校の裏山の奥地に、俺達は秘密基地を造っていた。 
秘密基地っつっても結構本格的で、複数の板を釘で打ち付けて、雨風を防げる3畳ほどの広さの小屋。 
放課後にそこでオヤツ食べたり、●本読んだり、まるで俺達だけの家のように使っていた。 
俺と慎と淳と犬2匹(野良)でそこを使っていた。

小5の夏休み、秘密基地に泊まって遊ぼうと言うことになった。 
各自、親には「○○の家に泊まる」と嘘をつき、小遣いをかき集めてオヤツ、花火、ジュースを買った。
修学旅行よりワクワクしていた。

夕方の5時頃に学校で集合し、裏山に向かった。 
山に入ってから一時間ほど登ると、俺達の秘密基地がある。
基地の周辺は、2匹の野良犬(ハッピー♂タッチ♂)の縄張りでもある為、
基地に近くなると、どこからともなく2匹が、尻尾を振りながら迎えに来てくれる。 
俺達は2匹に「出迎えご苦労!」と頭を撫でてやり、うまい棒を1本ずつあげた。

 

803 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:11:40 ID:moTdWLP+O

基地に着くと荷物を小屋に入れ、まだ空が明るかったので、すぐそばにある大きな池で釣りをした。
まぁ釣れるのはウシガエルばかりだが。(ちなみに釣ったカエル、は犬の餌) 
釣りをしていると、徐々辺りが暗くなりだしたので、俺達は花火をやりだした。
俺達よりも2匹の野良の方がハシャいでいたが。 

結構買い込んだつもりだったが、30分もしないうちに花火も尽きて、俺達は一旦小屋に入った。 
夜の秘密基地というのは皆始めてで、山の奥地ということで、街灯もなく、月明りのみ。
聞こえるのは虫の鳴き声だけ。簡易ライト一本の薄明るい小屋に三人。

最初は皆で菓子を食べながら好きな子の話、先生の悪口など喋っていたが、
静まり返った小屋の周囲から時折聞こえてくる、
『ドボン!』(池に何かが落ちてる音)や、『ザザッ!』(何かの動物?の足音?)に、俺達は段々と恐くなって来た。
しだいに、『『今、なんか音したよな?』『熊いたらどーしよ?!』など、
冗談ではなく、本気で恐くなりだしてきた。 

時間は9時。小屋の中は蒸し暑く、蚊もいて、眠れるような状況では無かった。
それよりも、山の持つ独特の雰囲気に俺達は飲まれてしまい、皆、来た事を後悔していた。 

 

806 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:35:31 ID:moTdWLP+O

明日の朝までどう乗り切るか、俺達は話し合った。 
結果、小屋の中は蒸し暑く、周囲の状況も見えない(熊の接近等)為、山を下りる事になった。 
もう内心、一時も早く家に帰りたい!と俺は思っていた。 
懐中電灯の明かりを頼りに足元を照らし、少し早歩きで俺達は下山し始めた。

5分ほどはハッピーとタッチが、俺達の周りを走り回っていたので心強かったが、
少しすると2匹は小屋の方に戻っていった。 
普段何度も通っている道でも、夜は全く別の空間にいるみたいだった。 
幅30cm程度の獣道を足を滑らさぬよう、皆無言で黙々と歩いていた。 

そのとき、慎が俺の肩を後ろから掴み、『誰かいるぞ!』と小さな声で言ってきた。 
俺達は瞬間的にその場に伏せ、電灯を消した。 
耳を澄ますと、確かに足音が聞こえる。
『ザッ、ザッ』
二本足で茂みを進む音。 

その音の方を目を凝らして、その何者かを捜した。 
俺達から2、30M程離れた所の茂みに、その何者かは居た。
懐中電灯片手に、もう一方の手には長い棒のようなものを持ち、
その棒でしげみを掻き分け、山を登っているようだった。 

 

808 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:44:54 ID:moTdWLP+O

俺たちは始め恐怖したが、その何かが人間であること。
また、相手が一人であることから、それまでの恐怖心はなくなり、俺たちの心は幼い好奇心で満たされていた。
俺が『あいつ、何者だろ?尾行する?』と呟くと、二人は『もちろん』と言わんばかりの笑顔を見せた。 
微かに見える何者かの懐中電灯の明かりと、草を書き分ける音を頼りに、俺達は慎重に慎重に後をつけだした。 

 

809 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 04:57:38 ID:moTdWLP+O

その何者かは、その後20分程山を登り続けて立ち止まった。 
俺達はその後方30M程の所に居たので、そいつの性別はもちろん、様子等は全くわからない。 
かすかな人影を捕らえる程度。
ソイツは立ち止まってから、背中に背負っていた荷物を下ろし、何かゴソゴソしていた。

『アイツ一人で何してるんだろ?クワガタでも獲りに来たんかなぁ・・・』と俺は言った。
『もっと近づこうぜ!』と慎が言う。 
俺達は枯れ葉や枝を踏まぬよう、擦り足で身を屈ませながら、 ゆーっくりと近づいた。 

 

810 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:19:30 ID:moTdWLP+O

俺達はニヤニヤしながら近づいていった。
頭の中で、その何者かにどんな悪戯をしてやろうかと考えていた。 
その時、
『コン!』
甲高い音が鳴り響いた。心臓が止まるかと。 
『コン!』
また鳴った。一瞬何が起きたか分からず、淳と慎の方を振り返った。 

すると淳が指をさし、『アイツや!アイツ、なんかしとる!』と。 
俺はその何者かの様子を見た。
『コン!コン!コン!』
何かを木に打ち付けていた。
いや、手元は見えなかったが、それが呪いの儀式というのはすぐにわかった。
と言うのも、この山は昔から藁人形に纏わる話がある。
あくまで都市伝説的な噂だと、その時までは思っていたが。

俺は恐くなり、『逃げよ』と言ったが、
慎が『あれ、やっとるの女や。よー見てみ』と小声で言い出し、
淳が『どんな顔か見たいやろ?もっと近くで見たいやろ?』と悪ノリしだし、
慎と淳はドンドンと先に進み出した。 
俺はイヤだったが、ヘタレ扱いされるのも嫌なんで、渋々二人の後を追った。 

その女との距離が縮まるたびに、『コン!コン!』以外に聞こえてくる音があった。 
いや、音と言うか、女はお経?のような事を呟いていた。 

 

814 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:34:10 ID:moTdWLP+O

少し迂回して、俺達はその女の、斜め後方8M程の木の陰に身を隠した。 
その女は肩に少し掛かるぐらいの髪の長さで、痩せ型、足元に背負って来たリュックと電灯を置き、
写真?のような物に次々と釘を打ち込んでいた。
すでに6~7本打ち込まれていた。 

その時、『ワン!』 
俺達はドキッとして振り返った、
そこにはハッピーとタッチが、尻尾を振ってハァハァいいながら、なにしてるの?と言わんような顔で居た。 
次の瞬間、慎が『わ゛ぁー!!』と変な大声を出しながら走り出した。 
振り返ると、鬼の形相をした女が、片手に金づちを持ち、
『ア゛ーッ!!』みたいな奇声を上げ、こちらに走って来ていた。 

 

819 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 05:49:00 ID:moTdWLP+O

俺と淳もすぐさま立ち上がり、慎の後を追い走った。 
が、俺の左肩を後ろから鷲づかみされ、すごい力で後ろに引っ張られ、俺は転んだ。 
仰向きに転がった俺の胸に、『ドスっ』と衝撃が走り、俺はゲロを吐きかけた。
何が起きたか一瞬分からなかったが、転んだ俺の胸に女が足で踏み付け、
俺は下から女を見上げる形になっていた。 

女は歯を食いしばり、見せ付けるように歯軋りをしながら、
『ンッ~ッ』と何とも形容しがたい声を出しながら、俺の胸を踏んでいる足を、左右にグリグリと動かした。 
痛みは無かった。もう恐怖で痛みは感じなかった。
女は小刻みに震えているのが分かった。恐らく興奮の絶頂なんだろう。 
俺は女から目が離せなかった。離した瞬間、頭を金づちで殴られると思った。 

 

826 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 06:10:53 ID:moTdWLP+O

そんな状況でも、いや、そんな状況だったからだろうか、女の顔はハッキリと覚えている。 
年齢は40ぐらいだろうか、少し痩せた顔立ち、目を剥き、
少し受け口気味に歯を食いしばり、小刻みに震えながら俺を見下す。 
俺にとってはその状況が、10分?20分?全く覚えてない。 

女が俺の事を踏み付けながら背を曲げ、顔を少しずつ近づけて来た、
その時、タッチが女の背中に乗り掛かった。 
女は一瞬焦り、俺を押さえていた足を踏み外しよろめいた。 
そこにハッピーも走って来て、女にジャレついた。 
恐らく、2匹は俺達が普段遊んでいるから、人間に警戒心が無いのだろう。 

俺はそのすきに慌てて起きて走りだした。 
『早く!早く!』と、離れたところから慎と淳が、こちらを懐中電灯で照らしていた。 
俺は明かりに向かい走った。
『ドスっ』
後ろで鈍い音がした。 
俺には振り返る余裕も無く走り続けた。 

慎と淳と俺が山を抜けた時には0時を回っていた。 
足音は聞こえなかったが、あの女が追い掛けてきそうで、俺達は慎の家まで走って帰った。 
慎の家に着き、俺は何故か笑いが込み上げて来た。極度の緊張から解き放たれたからだろうか? 
しかし、淳は泣き出した。

 

831 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 06:27:53 ID:moTdWLP+O

俺は『もう、あの秘密基地二度と行けへんな。あの女が俺らを探してるかもしれんし』と言うと、
淳は泣きながら『アホ!朝になって明るくなったら行かなアカンやろ!』と言い出した。 
俺がハァ?と思っていると、慎が俺に、
『お前があの女から逃げれたの、ハッピーとタッチのおかげやぞ!お前があの女に後から殴られそうなとこ、ハッピーが飛び付いて、代わりに殴られよったんや!』
すると淳も泣きながら、『あの女、タッチの事も、タッチも・・うっ・・・』と号泣しだした。

後から慎に聞くと、走り出した俺を後から殴ろうとしたとき、ハッピーが女に飛び付き、頭を金づちで殴られた。
女は尚も俺を追い掛けようとしたが、足元にタッチがジャレついてきて、タッチの頭を金づちで殴った。 
そして女は一度俺らの方を見たが、追い掛けてこず、ひたすら2匹を殴り続けていた。 

俺達はひたすら逃げた。
慎も朝になれば山に入ろうといった。 
もちろん、俺も同意した。 

 

852 :本当にあった怖い名無し:2006/04/22(土) 13:45:51 ID:moTdWLP+O

興奮の為に明け方まで眠れず、朝から昼前まで仮眠を取り、俺達は山に向かった。 
皆、あの『中年女』に備え、バット、エアーガンを持参した。 

山の入口に着いたが、慎が『まだアイツがいるかも知れん』と言うので、いつもとは違うルートで山に入った。 
昼間は山の中も明るく、蝉の泣き声が響き渡り、昨夜の出来事など嘘のような雰囲気だ。 
が、『中年女』に出くわした地点に近づくにつれ緊張が走り、俺達は無言になり、又、足取りも重くなった。 
少しずつ昨日の出来事を思い出し、例の地点に差し掛かった。 
バットを握る手は緊張で汗まみれだ。 

例の木が見えた。女が何かを打ち付けていた木。 
少し近づいて、俺達は言葉を失った。 
木には小さな子供(四・五歳ぐらいの女のコ?)の写真に、無数の釘が打ち付けられていた。 
いや、驚いたのはそれでは無い。その木の根元に、ハッピーの変わり果てた姿が。 
舌を垂らし、体中血まみれで、眉間に一本釘が刺されていた。 
俺達は絶句し、近づいて凝視することが出来なかった。 
蝿や見たことの無い虫がたかっており、生物の死の意味を、俺達は始めて知った。 

 

950 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 02:32:23 ID:0yX4mhCZO

俺はハッピーの変わり果てた姿を見て、今度中年女に会えば、次は俺がハッピーのように・・・
と思い、すぐにでも家に帰りたくなった。 
その時、淳が『タッチ・・・、タッチの死体が無い!タッチは生きてるかも!』と言い出した。 
すると慎も、『きっとタッチは逃げのびたんだ!きっと基地にいるはず!』と言い出した。
俺もタッチだけは生きていて欲しいと思い、三人で秘密基地へと走り出した。 

秘密基地が見える場所まで走ってきたが、慎が急に立ち止まった。 
俺と淳は『!中年女?!』と思い、慌てて身を伏せた。
黙って慎の顔を見上げると、慎は『・・・なんだあれ?』と基地を指差した。 
俺と淳はゆっくり立ち上がり、基地を眺めた。 
何か基地に違和感があった。
何か・・・基地の屋根に何か付いている・・・。 

少しずつ近づいていくと、
基地の中に昨夜忘れていた淳の巾着袋が(淳は菓子をいつもこれに入れて持ち歩いている)基地の屋根に、
無数の釘で打ち付けてあるではないか! 
俺達は驚愕した。
この秘密基地、あの中年女にバレたんだ!
慎が恐る恐る、バットを握り締めながら基地に近づいた。

 

955 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 02:47:25 ID:0yX4mhCZO

俺と淳は、少し後方でエアーガンを構えた。基地の中に中年女がいるかもしれない。 
慎はゆっくりとドアに手を掛けると同時に、すばやく扉を引き開けた。
『うわっ!』
慎は何かに驚き、その場に尻餅を付きながら、ズルズルと俺達の元に後ずさりをしてきた。 
俺と淳は何に慎が怯えているのか分からず、とりあえず銃を構えながら基地の中をゆっくりと覗いた。 
そこには、変わり果てたタッチの死体があった。 

『うわっ!』
俺も淳も、慎と同じような反応をとった。 
やはりタッチも、眉間に五寸釘が打ち込まれていた。 
俺はその時思った。あの中年女は変態だ!いや、キチ●イだ!
普通、こんなことしないだろう。 
とてつもない人間に関わってしまったと、昨夜、この山に来た事を心から後悔した。 

しばらく三人とも、タッチの死体を見て呆然としていたが、慎が小屋の中を指差し、『おい!!あれ・・・』 
俺と淳は黙りながら、静かに慎が指差す方向を覗き込んだ。 
基地の中・・・壁や床板に何か違和感が・・・何か文字が彫ってある・・・
近づいてよーく見てみた。

『淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺・・・』

無数に釘で淳・呪・殺と、壁や床に彫ってあった。 

 

959 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 03:02:43 ID:0yX4mhCZO

淳は『え??・・・』と目が点。というか、固まっていた。
いや、俺達も驚いた。なぜ名前がバレているのか! 
その時、慎が『淳の巾着や。巾着に名前書いてあるやん!』
『?!』
俺は目線を、屋根に打ち付けられた巾着に持って行った。 
無数に釘で打ち付けられた巾着には、確かに『五年三組○○淳』と書かれてある。 
淳は泣き出した。
俺も慎も泣きそうだった。学年と組、名前が中年女にバレてしまったのだ。
もう逃げられない。俺や慎の事もすぐにバレてしまう。
頭が真っ白になった。
俺達はみんなハッピーやタッチのように、眉間に釘を打ち込まれ殺される・・・

慎が言った。『警察に言おう!もうダメだよ。逃げられないよ!』
俺はパニックになり、
『警察なんかに言ったら、秘密基地の事とか、昨日の夜に嘘付いてここに来た事バレて、親に怒られるやろ!』
と冷静さを欠いた事を言った。
いや、当時は何よりも、親に怒られるのが一番恐いと思っていたのもあるが・・・
ただ、淳はずっと泣いたまま、『ッヒック、ヒック・・・』
何も掛ける言葉が見つからなかった。 

淳は無言で打ち付けられた巾着を引きちぎり、ポケットにねじ込んだ。

 

967 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 03:41:01 ID:0yX4mhCZO

俺達は会話が無くなり、とりあえず山を降りた。淳は泣いたままだった。 
俺は今もどこからか中年女に見られている気がして、ビクビクしていた。 
山を降りると慎が、
『もう、この山に来るのは辞めよ。しばらく近づかんといたら、あの中年女も俺らの事を忘れよるやろ』と言った。
俺は、
『そやな。んで、この事は俺らだけの秘密にしよ!誰かに言ってるのがアイツにバレたら、俺ら殺されるかもしれん』
慎は頷いたが、淳は相変わらず腕で涙を拭いながら泣いていた。 

その日は各自家に帰り、この夏休みは三人で会うことは無かった。

その二週間後の新学期、登校すると淳の姿が無かった。
慎は来ていたので、慎と二人で『もしかして淳、あの女に・・・』と思いながら、学校帰りに二人で淳の家を訪ねた。
家の呼び鈴を押すと、明るい声で『はぁーい!』と淳の母親が出て来た。 
俺が『淳は?』と聞くと、
おばさんは『わざわざお見舞いありがとねー。あの子、部屋にいるから上がって』と言われ、
俺と慎は淳の部屋に向かった。 

『淳!入るぞ!』と淳の部屋に入ると、淳はベットで横になりながら漫画を読んでいた。 
以外と平気そうな淳を見て、俺と慎は少し安心した。 

 

972 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 03:56:52 ID:0yX4mhCZO

慎『何で今日休んだん?』
俺『心配したぞ!風邪け?』
淳『・・・』
淳は無言のまま漫画を閉じ、俯いていた。 

そこにおばさんが菓子とジュースを持ってきて、
『この子、10日ぐらい前からずっとジンマシンが引かないのよ』と言って、
『駄菓子の食べ過ぎじゃないのー?』と続けた。 
そして笑いながら、おばさんは部屋を出ていった。 
俺と慎は笑って『何だよ!脅かすなよー、ジンマシンかよ!拾い食いでもしたんだろ?』とおどけたが、
淳は俯いたまま笑わなかった。

慎が『おい!淳どうした?』と尋ねると、淳は無言でTシャツを脱いだ。 
体中に赤い斑点。 
確かにジンマシンだった。
俺は『ジンマシンなんて薬塗ってたら治るやん』と言うと、
淳が『これ、あの女の呪いや・・・』と言いながら、背中を見せて来た。 
確かに背中も無数にジンマシンがある。 

慎が『何で呪いやねん。もう忘れろ!』と言うと、淳は『右の脇腹見て見ろや!』と少し声を荒げた。 
右の脇腹・・・たしかにジンマシンが一番酷い場所だったが、なぜ呪いに結び付けるかが分からなかった。 
すると淳が、『よく見ろよ!これ、顔じゃねーか!』
よく見て俺と慎は驚いた。
確かに直径五センチ程の人、いや、女の顔のように皮膚がただれて腫れ上がっている。

 

979 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 04:15:51 ID:0yX4mhCZO

俺と慎は『気にしすぎだろ?たしかに顔に見えないことも無いけど』と言ったが、
『どー見ても顔やんけ!俺だけやっぱり呪われてるんや!』と言った。 
俺と慎は、淳に掛ける言葉が見つからなかった。と言うより、淳の雰囲気に圧倒された。 
いつもは温厚で優しい淳が・・・少し病んでいる。
青白い顔に覇気のない目。きっと精神的に追い詰められているのだろう。 
俺と慎は急に淳の家に居づらくなり、帰ることにした。 

帰り道、俺は慎に『あれ、どー思う?呪いやろか?』と聞いた。 
慎は『この世に呪いなんてあらへん!』と言った。
なぜかその言葉に、俺が勇気づけられた。 

それから三日過ぎた。依然、淳は学校には来なかった。 
俺も慎も淳に電話がしづらく、淳の様子は分からなかった。
ただクラスの先生が、『風疹で淳はしばらく休み』と言っていたので、少し安心していた。 

しかしこの頃から、学校で奇妙な噂が流れ始めた。
『学校の通学路に、トレンチコートにサンダル履きのオバさんが、学童を一人一人睨むように顔を凝視してくる』
という噂だ。

 

982 :本当にあった怖い名無し:2006/04/23(日) 04:26:47 ID:0yX4mhCZO

その噂を聞いた放課後、俺は激しく動揺した。何故なら、俺は唯一間近で顔を見られている。 
慎に相談した。
慎は『大丈夫!夜やったし見えてないって!それにあの日見られてたとしても、忘れてるって!』と、
俺を落ち着かせる為か、意外と冷静だった。

何よりも嫌だったのが、俺と慎は通学路が全くの正反対。
俺と淳は近所なのだが、淳が休んでいる為、俺は一人で帰らなければいけない。 
俺は慎に『しばらく一緒に帰ろうよ!俺、恐い』と慎に頼んだ。
慎は少し呆れた顔をしていたが、『淳が来るまでやぞ!』と言ってくれた。 
その日から帰りは俺の家まで、慎が付き添ってくれる事になった。 

 

295 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:21:39 ID:5CaStqefO

その日は、学校で噂の『トレンチコート女』(推定・中年女)には会わなかった。 
次の日も、その次の日も会わなかった。 
しかし、学校では相変わらず『トレンチコートの女』の噂は囁かれていた。 

慎と一緒に下校することになって五日目、俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。 
お土産に、給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。 

淳の家に着き、チャイムを押した。
いつもの様に叔母さんが明るく出て来て、俺達を中に入れてくれた。 
淳は相変わらず元気が無かった。
ジンマシンは大分消えていたが、淳本人は『横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている』と言い、
俺と慎には全く分からなかった。
むしろ、前回見たときよりはマシになっているように見えた。 
精神的に淳はショックを受けているのだろう。 
俺達は学校で流れている『トレンチコートの女』の噂は、淳には言わなかった。

帰り間際に、淳の叔母さんが俺達の後を追い掛けて来て、
『淳、クラスでイジメにでも会っているの?』と不安げな顔で聞いて来た。 
俺達は否定したが、本当の理由を言えないことに、少し罪悪感を感じた。 

 

301 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:40:18 ID:5CaStqefO

それから三日後、その日は珍しく、内藤と佐々木と俺と慎の四人で一緒に下校した。 
内藤は体がデカく、佐々木はチビ。実写版のジャイアンとスネオみたいな奴ら。 
もう俺と慎の中で、『中年女』の事は風化しつつあった。
学校で噂の『トレンチコート女』も実在したとしても、全くの別人と思えて来ていた。 
その日は、四人で駅前にガチャガチャをしに行こう、と言う話になり、いつもと違う道を歩いていた。 

楽しく四人で話しながら歩いていると、佐々木が『あ、あれ、トレンチコート女ぢゃね?』
内藤『うわっ!ホンマや!きもっ!』と言い出した。 
俺はトレンチコート女を見てみた。心の中で別人であってくれ!と願った。 
トレンチコート女はスーパーの袋を片手に持ち、まだ残暑の残るアスファルトの道で、ただ突っ立っていた。

うつむいて表情は全く分からない。
慎は警戒しているのか、小声で俺達に『目、合わせるなよ!』と言ってきた。 
少しずつ、女との距離が縮まっていく。緊張が走った。女は微動たりせず、ただうつむいていた。 

女との距離が5M程になったとき、女は突然顔を上げ、俺達四人の顔を見つめてきた。
そしてその次に、俺達の胸元に目線を送って来ているのが分かった。 
!名札を確認している。

 

306 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 03:56:07 ID:5CaStqefO

俺は焦った。平常心を保つのに必死だった。 
一瞬見た顔で、あの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。 
間違いない。『中年女』だ!
俺はうつむきながら歩き過ぎた。 
俺はいつ襲い掛かられるかとビクビクした。 

どれくらい時が過ぎただろう。いや、ほんの数秒が永遠に感じた。 
内藤が『あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!』と笑った。 
佐々木も『この糞暑いのにあの格好!ぷっ!』と馬鹿にしていた。 
俺と慎は笑えなかった。

佐々木が続けて言った。
『やべ!聞こえたかな?まだ見てやがる!』
俺はとっさに振り返った。 
『中年女』と目が合った・・・ 
まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔が、ニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。 
背筋が凍るとはこの事か・・・

俺は生まれて始めて、恐怖によって少し小便が出た。 
バレたのか?俺の顔を思い出したのか?バレたなら何故襲って来ないのか? 
俺の頭は、ひたすらその事だけがグルグル巡っていた。 
内藤が『うわーっ、まだこっち見てるぜ!佐々木!お前の言った悪口聞かれたぜ!俺知らねーっ!』
っとおどけていた。 

 

311 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 04:13:03 ID:5CaStqefO

もうガチャガチャどころではない。
曲がり角を曲がり、女が見えなくなった所で、俺は慎の腕を掴み『帰ろう!』と言った。 
慎は俺の目をしばらく見つめて、『あ、今日塾だっけ?帰らなやばいな!』と俺に合わせ、俺達は走った。 

家とは逆の方向に走り、しばらくして俺は慎に『アイツや!あの目、間違いない!俺らを探しに来たんや!』
慎は意外と冷静に、『マジマジと名札見てたもんな・・・学年とクラス、淳の巾着でバレてるし・・・』
俺はそんな落ち着いた慎に腹がたち、『どーすんだよ!もう逃げ切れネーよ!家とかそのうちバレっぞ!!』
慎『やっぱ警察に言おう。このままはアカン。助けてもらお』
俺『・・・』

俺はしばらく黙っていた。たしかに、他に助かる手は無いかもしれないと思った。 
『でも、警察に何て言う?』と俺が問うと慎は、
『山だよ。あの山に打ち付けられた写真とか、ハッピー、タッチの死体。あれを写真に撮って、あの女が変質者って言う証拠を見せれば、警察があの女を捕まえてくれるはずや!』
俺は納得した。もうあの山に行くのは嫌だったが、仕方が無かった。 
さっそく明日の放課後、裏山に二人で行く事になった。 

 

315 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/24(月) 04:27:46 ID:5CaStqefO

明日の放課後、裏山に行く。
その話がまとまり、俺達は家に帰ろうとしたが、
『中年女』が何処に潜伏しているか分からない為、俺達は恐ろしく遠回りした。
通常なら20分で帰れるところを、二時間かけて帰った。

家に着いて、俺はすぐに慎に電話した。
『家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!』などなど。
俺は自分がこれほどチキンとは思わなかった。 
名前がバレ、小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が、精神的に病んでいるのが理解できた。 
慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。 
この時俺は思った。普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで俺の兄のような存在だと。 
もちろん、その日の夜は眠れなかった。 
わずかな物音に脅え、目を閉じればあのニヤッと笑う中年女の顔が、まぶたの裏に焼き付いていた。 

朝が来て学校に行き、授業を受け、放課後の午後3時半。
俺と慎は、裏山の入口まで来た。 

 

156 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 04:50:46 ID:2G2sPLliO

俺は山に入るのを躊躇した。
『中年女』『変わり果てたハッピーとタッチ』『無数の釘』 
頭の中をグルグルと、鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。 
俺は慎の様子を伺った。慎は黙って山を見つめていた。慎も恐いのだろう。 
やっぱ、入るの恐いな・・・と言ってくれ!と俺は内心願っていた。 

慎はズボンのポケットからインスタントカメラを取り出し、右手に握ると、
俺の期待を裏切り、『よし』と小さく呟き、山へ入るとすぐさま走りだした。 
俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。 
慎は振り返らずに走り続ける。 
俺は必死に慎を追った。一人になるのが恐かったから必死で追った。 
今思えば慎も恐かったのだろう。恐いからこそ、周りを見ずに走ったのだろう。 

あの場所が徐々に近づいてくる。 
思い出したくもないのに、あの夜の出来事を鮮明に思いだし、心に恐怖が広がりだした。 
恐怖で足がすくみだした時、あの場所に着いた。 
そう、『中年女が釘を打っていた場所』『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』『中年女に引きずり倒された場所』 
『中年女と出会ってしまった場所』 

 

160 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:19:27 ID:2G2sPLliO

俺は急に誰かに見られているような気がして、周りを見渡した。
いや、誰かにでは無い。中年女に見られているような気がした。 
山特有の静寂と、自分自身の心に広がった恐怖がシンクロし、足が震えだす。 
立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。 
何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。 
『ハッピー・・・』
その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。 

ハッピーは既に土の一部になりつつあった。
頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。 
俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が『待って!』と言い、写真を一枚撮った。 
慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。 
頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い、多数の虫がザザッと一斉に出てきた。 

『うわっ!』

俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。 
ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。
それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。 
慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。 
俺はあの夜ハッピーを見殺しにし、またハッピーを見殺しにした。 
俺は最高に弱く、最低な人間だ。 

 

161 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:39:52 ID:2G2sPLliO

慎はカメラを再び構え、あの木を撮ろうとしていた。 
『ん?!おい!ちょっと来てーや!』
何かを発見し、俺を呼ぶ慎。俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。 
慎が『これ、この前無かったよな?』と、何かを指差す。 
その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・

ん?たしか前もあったはずじゃ・・・ 
いや!写真が違う! 
厳密に言うと、この前見た4・5歳ぐらいの女の子の写真はその横にある。 
つまり、写真が増えている!
写真の状態からして、ここ2・3日ぐらいに打ち込まれているであろう。 
この前に見た写真は、既に女の子かどうかもわからないぐらいに、雨風で表面がボロボロになっている。 

新しい写真も、4、5歳ぐらいの女の子のようだ。 
この時は慎に言わなかったが、俺は一瞬、新しい写真が俺だったらどうしよう!!とドキドキしていた。 
慎はカメラに、その打ち込まれた写真を撮った。 
そして、『後は秘密基地の彫り込みを撮ろう』と言い、又走りだした。 
俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。 

 

163 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 06:07:52 ID:2G2sPLliO

秘密基地に近いてきて、俺は違和感を感じ、『慎!』と呼び止めた。
 
違和感。
いつもなら、秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。 
慎もすぐに気付いたようだ。
このとき、脳裏に『中年女』がよぎった。 
胸騒ぎがする。鼓動が激しくなる。

慎が『裏道から行こう』と言った。俺は無言で頷いた。
裏道とは、獣道を通って秘密基地に行く、従来のルートとは別に、
茂みの中をくぐりながら、秘密基地の裏側に到達するルートの事である。 
この道は、万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。 

もちろん、遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・・ 
この道なら万が一基地に『中年女』がいても、見つかる可能性は極めて低い。 
俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。 

そして秘密基地の裏側約5M程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が分かった。 
バラバラに壊されている。
俺達が造り上げた秘密基地は、ただの材木になっていた。 
しばらく様子を伺ったが、中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、秘密基地の跡地に到達した。 

 

181 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 16:32:42 ID:2G2sPLliO

俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て、少し泣きそうになった。 
秘密基地は言わば、俺達三人と2匹のもう一つの家。 
バラバラになった材木の片隅に、大きな石が落ちていた。恐らく誰かが、これをぶつけて壊したのだろう。 
誰かが?・・いや、多分『中年女』が・・・。

慎が無言で写真を撮りだした。 
そして数枚の材木をめくり、『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。 
その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。 
ハッピーとタッチ。
秘密基地よりもかけがえの無い2匹を、俺達は失った事を痛感した。

慎は立ち上がり、『よし、このカメラを早く現像して、警察に持って行こう』と言った。 
俺達は山を駆け降りた。
山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。 
このカメラに納められた写真を見せれば、中年女は捕まる。俺らは助かる。
その一心だけで走った。 

途中でカメラ屋に寄り、現像を依頼。 
出来上がりは30分後と言われたので、俺達は店内で待たせてもらった。 
その間、慎との会話はほとんど無かった。ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。 

そして30分が過ぎた。

 

190 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 22:54:20 ID:2G2sPLliO

『お待たせしましたー』
バイトらしき女店員に声をかけられた。 
俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。 

女店員は少し不可解な顔をしながら、
『現像出来ましたので、中の確認をよろしくお願いします』といいながら、写真の入った封筒を差し出した。
まぁ現像後の写真が、犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、不可解な顔をするのも当然だが・・・ 
慎はその場で封筒から写真を取り出し、すべての写真を確認し、
『大丈夫です。ありがとうございました』と言い、代金を支払った。 
店を出て、すぐさま交番へ向かった。

これで全てが終わる。
駅前の交番へ二人して飛び込んだ。 
『ん?!どうしたの?』
中にいた若い警官が、笑顔で俺達を迎えてくれた。 
俺達はその警官の元に歩み寄り、『助けてください!』と言った。 

俺と慎は、あの夜の出来事を話した。裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。
そして、今も『中年女』に狙われている事を。

一通り話し終わると、その警官は穏やかな表情で『お父さんやお母さんに言ったの?』
俺たちは親には伝えてないと言うと、
『ん~んぢゃ、家の電話番号教えてくれるかな?』と警官は言い出した。 

 

286 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 01:58:44 ID:Ey4nh9XjO

慎が『なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!』とキレ気味に言い放った。 
ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。 
俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。 

あの夜は親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれたとバレれば、
俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。
『助けてよ!警察官でしょ!!』と慎が詰め寄る。

警官は少し苦笑いして、
『君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ』
と、しばらくイタチゴッコが続いた。 

あげくに警官は、『じゃあ君達の担任の先生は何て名前?』など、
俺達にとっては脅しに取れる言葉を投げ掛けてきた。 
まぁ警官にとっては、俺達の保護者及び責任者から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、 
俺達にとって、こういう時の親や先生は、怒られる対象にしか考えられなかった。 
そうこうしているうちに、俺達の心の中に、目の前にいる警官に対して不信感が芽生えてきた。 
このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!と。 

 

290 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:31:44 ID:Ey4nh9XjO

この警官は、俺達の話を信じてくれてないのでは?と俺は思い始めた。 
俺や慎が必死に助けを求めているのに、『親』『先生』ばかり言ってくる。 
俺達は『中年女』の存在を裏付ける、証拠写真まで持参しているのに・・・ 
俺はもう一度警官に写真を見せつけ、『犬をこんな殺し方する奴なんだよ!』と言った。 

すると警官はしばらく黙り込み、写真を手に取り、意外な一言を言った。 
『ん~・・・これって犬?なの?』
『は?』と俺と慎は驚いた。この人は何を言っているんだろう!と。 
続けて警官は、『いや、君達を信じていない訳じゃないよ。じゃあもう少し詳しく教えて。ここが頭?』
警官は冗談を言っている訳では無く、本当に分からないようだ。 

俺はハッピーの写真を取上げ、『だから・・・』と説明しかけて言葉が詰まった。 
確かにこの写真を客観的に見ると、犬の死骸には見えないかも・・・と思った。 
薄茶色に変色した骨に、所々わずかに残っている毛。
俺と慎は、ハッピーが死体になった翌日にも見ているので、
腐食が進んでいても元の形(倒れていた角度、姿)を知っているが、 
知らない奴が見ると、ただの汚れた石に汚い雑巾の様なものが、絡んでいるようにしか見えないかも知れない。

 

291 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:56:37 ID:Ey4nh9XjO

俺は冷静に他の写真も見てみた。
板に刻まれた『淳呪殺』、少女の写真に無数の『釘』。
たしかに、『中年女』の存在に直接結び付けるのは難しいのか? 
ひょっとして警官は、小学生の悪戯と思っていて、先程から『親』『担任』などと言っているのか? 
俺はこのまま此処にいては危険だと感じ出した。
『絶対、親を呼び出すつもりだ!』
俺は慎に小さな声で耳打ちした。 

慎は無言で頷き、アゴをクイッと動かし、外に出る合図を送ってきた。 
すると次の瞬間、慎は勢いよく振り向き走りだした。 
俺もすぐさま後を追い、交番から抜け出した。 
後ろから『おいっ!』と警官が呼び止める声がしたが、俺達は振り向かずに走り続けた。 

警官が追い掛けてくる気配は無かった。
警官はおそらく、悪戯しにきた小学生が、嘘を見破られそうになり逃げ出した。とでも思っているのだろう。 

 

352 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 09:22:18 ID:jZMGGFeIO

俺と慎は、警官が追って来ていないことを充分に確認し、道端に座り込み、緊急ミーティングを開催した。 
『これからどーする?』
『どーしよ・・・』 
俺達は途方に暮れていた。最後の切り札の警察にも信じてもらえず、『中年女』から身を守る術を失った。 

これで全てが解決すると俺達は思い込んでいただけに、ショックはデカかった。 
『このままだったら中年女に住所バレて・・・』
俺は恐かった。
すると慎が、『しばらくあの女には出くわさないように注意して・・・』と言いかけたが、
俺はすぐに、
『もう無理だよ!淳の学年とクラスがバレてる時点で、すぐに俺らもバレるに決まってる!』と少し声を荒げた。

『でも、あの女・・・俺達に何かする気あるのかな?』
『?』
慎が言いだした。
『だってこの前俺ら、学校帰りにあの女に出会ったじゃん。もし何かするつもりなら、あの時でも良かった訳じゃん』
『・・・』
慎が続けて、
『それに山・・・もし俺らのことを許してないなら、山に何らかの呪い彫りとかあってもいーはずじゃん』
『・・・』
たしかに。山に行った時、新しい俺達に対する呪い的な物は無かった。
秘密基地は壊されていたが・・・ 
新しい女の子の釘刺し写真はあったが、
俺達・・・まして、フルネームがバレている淳の呪い彫りも無かった。

 

355 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 09:38:55 ID:jZMGGFeIO

俺は内心、そーなのかな?と反論したかったが、しなかった。 
慎の言う通り、実は俺達が思っている程『中年女』は俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。と思いたかった。
慎はもう一度、『俺らを本気で怨んでいるなら、何らかのアクションを起こすはずだろ?』
と、まるで俺を安心さすかのように言った。 

そして、『学校の近くをウロついてるのも、俺らを捜してるんぢゃなく、写真の女の子を捜してる可能性もあるだろ?』
と言葉を続けた。

『そーか・・・』
俺はその慎の言葉を聞いて、少し気持ちが楽になった感じがした。 
と言うか、慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、自分自身を無理矢理納得させようとした。 
それは現実逃避に近いかもしれない。 
慎自身もそうだったのかも知れない。
もう『中年女』から逃げる術が見つからず、言ったのかも知れない。 

しかし俺は、俺達は、
『そーだよな!そのうち俺らのことなんて忘れよる!』
『もう忘れとるって!』
『なんだよチクショー!ビビって損した!』
『ほんま、あの女、泣かしたろか!』
とお互い強がって見せた。
ある意味、やけくそに近いかもしれない。

 

363 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 13:47:06 ID:jZMGGFeIO

しばらくその場で、慎と『中年女』の悪口などを談笑していた。 
辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。 

慎と別れる道に差し掛かって、
『明日の帰り、淳の様子見に行こっか!』
『おう!そやな!』
とお互い明るく振る舞って、手を振り別れた。 

俺の心は少し晴れやかになっていた。 
そーだよな・・・慎の言う通り、中年女はもう俺達の事なんて忘れてるよな・・・と。 
まるで自己暗示のように、繰り返し言い聞かせた。 
足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。 
空を見上げると雲も無く、無数の星がキラキラ輝き、とても清々しい夜空だった。 
今まで『中年女』の事でウジウジ悩んでいたのが、馬鹿らしく思えた。

自宅に近づき、その日は見たいアニメがあるのに気付き、俺は小走りで家に向かった。
『タッタッタッタッ・・・』
夜の町内に俺の足跡が響く。
『タッタッタッタ・・・』
静かな夜だった。

『タッタッタッタッ・・・』
ん?
『タッタッタッタ・・・』

俺の足音以外に違う足音が聞こえる。 
後ろを振り向いた。 
暗くて見えないが誰もいない。気のせいか。 
ナンダカンダ言って俺は小心者だな、と思いながら再び走った。

『タッタッタッタッ・・・』
『タッタッタッタ・・・』
ん?誰かいる。 

 

365 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 14:06:24 ID:jZMGGFeIO

俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。 
・・・やっぱり誰もいない。
確かに俺の足音にマジって、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?
俺も淳のように、自分でも気付かないうちに、精神的に『中年女』追い詰められているのか?
ビビり過ぎているのか? 
しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。 

ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。 
15M程後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に、誰かがしゃがんでいる。 
いや、隠れている。
月明かりでハッキリ黙視できないが、一つだけハッキリと見えたものがある。
コートを着ている!
しばらく俺は固まった。 

隠れている奴は、俺に見つかっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える! 
俺は一瞬混乱した。
中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!
腰が抜けそうになったが、本能だろうか、次の瞬間、
逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!
と、もう一人の俺が俺に命令する。 
俺は思いッキリ走った!運動会の時より必死に走った。風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。 

 

413 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/02(火) 17:47:42 ID:VN7lh4fvO

無我夢中で家に向かって走った。
家まであと10M。
よし!逃げ切れる! 

『!』

一瞬、頭にあることがよぎった。
このまま家に逃げ込めば、間違いなく家がバレる!
俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。 
当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を巻く為に・・・

5分ほど、でたらめな道を走り続けた。
さすがに息がキレて来て歩きだし、後ろを振り向いた。 
もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。 
俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。

再び自宅の10M程手前に差し掛かり、俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。 
両親が共働きで鍵っ子だった俺は、すばやく玄関の鍵を開け 中に入り、すばやく施錠した。 
『フぅー・・・』
安堵感で自然とため息が出た。 
とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。 

『!?』

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関扉を凝視した。 
俺の家の玄関は、曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、曇りガラスの向こう側に・・・
玄関先に誰かが立っている影が映っていた。 

 

451 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 08:46:27 ID:FVrpBt6MO

玄関扉を挟んで1M程の距離に『中年女』がいる! 
俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。 
いや、むしろ身動き出来なかった。
まるで金縛り状態・・・蛇に睨まれた蛙とは、このような状態の事を言うのだろう。 
曇り硝子越しに見える『中年女』の影を、ただ見つめるしか出来なかった。 

しばらく『中年女』は、じっと玄関越しに立っていた。微動すらせず。 
ここに俺がいることがわかっているのだろうか?
その時、硝子越しに、『中年女』の左腕がゆっくりと動き出した。 
そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、キシッ!と扉が軋んだ。 
俺の鼓動は、生まれて始めてといっていいほどスピードを上げた。 
『中年女』は扉が施錠されている事を確認すると、ゆっくりと左腕を戻し、再びその場に留まっていた。 
俺は依然、硬直状態。

すると『中年女』は、玄関扉に更に近づき、その場にしゃがみ込んだ。 
そして、硝子に左耳をピッタリと付けた。 
室内の様子を伺っている! 
目の前の曇り硝子に、『中年女』の耳が鮮明に映った。 
もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。 
『中年女』に鼓動音がバレる!と思う程だった。 

 

457 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 09:18:17 ID:FVrpBt6MO

『中年女』は二、三分間、扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、
こちら側を向いたまま、ゆっくりと一歩ずつ後ろにさがって行った。 
少しづつ硝子に映る『中年女』の影が薄れ、やがて消えた。 
『行ったのか・・・?』
俺は全く安堵出来なかった。 

何故なら、『中年女』は去ったのか? 
俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか? 
まだ家の周りをうろついているのか? 
もし、『中年女』に俺がこの家に入る姿を見られていて、
俺の存在を確信した上で、さっきの行動を取っていたのだとしたら、
間違いなく『中年女』は、家の周囲にいるだろう。
俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。

一切、部屋の明かりは点けない。明かりを燈せば、俺の存在を知らせることになりかねない。 
俺は居間に入ると真っ直ぐに電話の受話器を持ち、手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。 
3コールで慎本人が出た。
『慎か?!やばい!来た!中年女が来た!バレた!バレたんだ!』
俺は小声で焦りながら慎に伝えた。
『え?どーした?何があった?』と慎。 
『家に中年女が来た!早く何とかして!』
俺は慎にすがった。 

 

546 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:04:28 ID:8b48b6KiO

『落ち着け!家に誰もいないのか?』 
『いない!早く助けて』
『とりあえず、戸締まり確認しろ!中年女は今どこにいる?』 
『わからない!でも家の前までさっきいたんだ!』
『パニクるな!とりあえず戸締まり確認だ!いいな!』
『わかった!戸締まり見てくるから早く来てくれ!』

俺は電話を切ると、戸締りを確認しにまずは便所に向かった。 
もちろん家の電気は一切つけず、五感を研ぎ澄まし、暗い家内を壁づたいに便所に向かった。 
まずは便所の窓を、そっと音を立てず閉めた。 
次は隣の風呂。
風呂の窓もゆっくり閉め、鍵をかけた。 
そして風呂を出て、縁側の窓を確認に向かった。 
廊下を壁づたいに歩き、縁側のある和室に入った。 

縁側の窓を見て違和感を覚えた。 
いや、いつもと変わらず窓は閉まって、レースのカーテンをしてあるのだが、左端・・・人影が映っている。
誰かが外から窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手を目の周辺に付け、室内を覗いている。 
家の中は電気をつけていない為、外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。 
窓に『中年女』が、ヤモリの如く張り付いている。 
俺は腰が抜けそうになった。 

 

548 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:31:11 ID:8b48b6KiO

これは動物の本能なのだろうか? 
肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。 
全身が無意識に震えていた。 
『中年女』からこちらは見えているのか? 
『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。 

そしてキュルキュルキュルと、嫌な音が窓からしてきた。 
『中年女』の右手が窓を擦っている。左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら。
キュルキュルキュル 
嫌な音は続く。俺の恐怖心はピークに達した。 
何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖し、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。 

すると『中年女』は後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。 
俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。 
すると窓の向こうの道路に、赤い光がチカチカしているのが見えた。 
「警察が来たんだ!」 
俺は状況が飲み込めた。 
偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。 

しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。 
プルルルルル!
その時、電話が突然鳴った。もう心臓が止まりかけた。 
ディスプレイを見ると、慎の自宅からの電話だった。 

 

551 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:47:22 ID:8b48b6KiO

俺は慌てて電話に出た。
『どう?』 
『なんか部屋覗いとったけど、どっか行った・・・』
『そっか、親帰って来たんか?』 
『いや、たまたまパトカー通って、それにビビって中年女逃げたんや思う』
『そーなんや!良かった。俺、お前んちの近くに不審者がいるって、通報しといてん。でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな・・・』
『・・・』
『俺も今日、親に言うから・・・お前も言えよ!もうヤバイよ!』 
『・・・うん・・・』
そして電話を切った。 

その30分後、母親がパートから帰って来た。 
俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか泣き出した。 
母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後、
『ごめんなさい』と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から、さっきの出来事まで説明した。 
説明の途中に父親も帰宅し、父には母が説明した。 

その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。 
窓硝子は、鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。 
鋭利な何かが五寸釘だと、直感でわかった。 
両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。 

 

679 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:25:17 ID:BiI+Rh5RO

10分程してから警察が来た。
警察には父が事情を説明していた。 
俺は母親と居間にいたが、少ししてから警官が居間に来て、あの夜の事を聞いてきた。 
ハッピーとタッチの事、木に釘で刺された少女の写真の事、淳の名前が秘密基地に彫られていたこと・・・ 

その後、放課後に出会った事など、『中年女』に係わる全ての事を話した。
そして、さっきの出来事も。
鑑識らしき人も来ていて、俺が話している間に窓の指紋を採取していた。 
俺が話した内容で、警官がもっとも詳しく聞いてきたことが、少女の写真の事だった。 
その少女の容姿や面識の有無等聞かれたが、それについては『よく分からない』と答えるしかなかった。 
そして裏山の地図を書かされ、翌日、警察が調べに行くと言う事になり、
自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して、警察官は帰っていった。 
結局、指紋は出なかった。

しばらくして、慎と淳の親から電話がかかってきた。
親同士で何やら話していたが、
『中年女』に関する話というより、学校にどのように説明するかを話していたようだ。

686 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:56:49 ID:BiI+Rh5RO

その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。 
恥ずかしさなど微塵も無く、純粋に『中年女』が怖く、なかなか寝付け無かった。 

次の日の朝、母親に起こされた時には、すでに午前8時を回っていた。 
『遅刻する!』と慌てると、母が『今日は家で寝てなさい』と言う。 
どうやら既に学校に事情を話したらしい。
父はすでに出社していたが、母はパートを休んでいた。

慎や淳も今日は学校を休んでいるだろう・・・と思ったが、あえて電話はしなかった。 
慎は恐らく、厳格な両親に怒られている。
淳の両親は、不登校になった淳の真実を知りショックを受けている。
と思うと、電話するのが恐かったから。 

俺は自室に篭り、『中年女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。 
一時も早く、追い詰められる恐怖から解放されたかった。 
母親は何故か、『中年女』の事を口にしてこなかった。
俺への気配り?と思い、俺も何も言わなかった。

昼飯を食べ、ふたたび自室に篭っていると、ドスっと家の外壁に鈍い音が響いた。 
俺はとっさに、慎だ!と思った。
あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。 

 

688 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 03:14:45 ID:BiI+Rh5RO

俺は窓から外を眺めた。 
家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。 
どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。 
その時、俺の部屋の下にあたる庭先から、『キャ!』と母親の声がした。 
びっくりして窓を開け、身を乗り出して下を見た。 
そこには母親が、地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。 

俺は何が起こっているのか分からず、『どーしたの!』と聞いた。 
母は俺の声にギクッと反応し、こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。 
俺は良からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。 
そこには何やら、ドロっとした紫色した液体と、ゼリー状の物が付いていた。 
先程のドスっの音の正体であろう。 
視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。 

そこには、内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。 
母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。 
俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。
すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、何処にも姿は見えなかった。 
母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。 

 

690 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 04:34:37 ID:BiI+Rh5RO

母は青い顔をしていた。恐らくこの時始めて、『中年女』の異常性を知ったのだろう。 
そうだ、あの女は異常なんだ。
きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず・・・ 
きっと近くから俺を見ているはず・・・
鳥肌が立った。 

警察早く来てくれ!
心の中で叫んだ。 
もうこの家は家では無い。
『中年女』からすれば鳥籠のように、俺達の動きが丸見えなんだ。
常に見られているんだと感じ出した。 

しばらくしてパトカーがやってきた。昨日とは違う警官二人だった。 
警官一人は、外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、
もう一人は俺と母に、『何か見なかったか?』『その時の状況は?』などなど、漠然とした事を何度も聞いて来た。

最後に警官が、不安を煽るような事を言って来た。 
『たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?おそらく犯人は、すぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです』と。 
俺はたまらず、
『あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!』
と半泣きになって懇願した。 

 

774 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:31:16 ID:UOWDTjZwO

すると警察官は、
『さっきね、山を見てきたんだよ・・・犬の死体も、板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。今からそれを調べて、必ず犯人捕まえるから!』
と言い、俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き何やら話していた。 
『主人に連絡を・・・』みたいな事を言われていたようだ。 
壁に付いた蛙の染み、及びその死体の写真を撮り、1時間程で警官達は帰って行った。

しばらくして父親が帰宅した。まだ5時前だった。昨日の今日だから心配になったのだろう。 
夕食の準備をしている母も、夕刊を読んでいる父も無言だったが、どことなくソワソワしているのが分かった。 
もちろん俺自身も、次にいつ『中年女』が来るのか不安で仕方なかった。 
その日の晩飯は家族皆が無口で、只テレビの音だけが部屋に響いていた。 

そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。
用心の為、一階の居間は電気を点けっぱなしにしておくことになった。 

 

775 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:40:45 ID:UOWDTjZwO

その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。
もちろんなかなか寝付けなかった。

どれぐらい時間が過ぎただろう。
突然玄関先で、『オラァー!!』とドスの効いた男の声とともに、
『ア゛ー!ア゛ー!』と聞き覚えのある奇声、『中年女』の叫び声が聞こえた。 
俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。 
俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。 
カチャカチャ・・・ガラガラガラガラ!
父が玄関の鍵を開け、戸を開ける音がした。 

 

782 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:55:14 ID:UOWDTjZwO

戸を開ける音と共に、
『ア゛ー!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!』
再び『中年女』の叫びが聞こえて来た。 
『大人しくしろ!』『オラ!暴れるな!』と、男の声もした。 
この時、俺は『警官だ!警官に捕まったんだ!』と事態を把握した。 

中年女は奇声を上げ続けていた。 
俺はガクガク震え、母の腕の中から抜けれなかったが、
父親が戻って来て、
『犯人が捕まったんだ。お前が山で見た人かどうかを確認したいそうだが・・・大丈夫か?』と 尋ねてきた。 
もちろん大丈夫ではなかったが、これで本当に全てが終わる。終わらせることが出来る!と自分に言い聞かせ、
『・・・うん』と返事し、階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。 

玄関先から、
『オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!』
と、凄い叫び声が聞こえ、足がすくんだが、
父が俺の肩を抱き、二人の警官に取り押さえられた『中年女』の前に俺は立った。

 

791 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:10:12 ID:UOWDTjZwO

俺は最初、恐怖の余り、自分の足元しか見れなかったが、
父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと視線を『中年女』に送った。 
両肩を二人の警官に固められ、地面に顎を擦りつけながら、『中年女』は俺を睨んでいた。 
相当暴れたらしく、髪は乱れ、目は血走り、野犬の様によだれを垂れていた。

『オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!』

訳のわからない事を『中年女』は叫び、ジタバタしていた。 
それを取り押さえていた警官が、『間違いない?山にいたのはコイツだね?』と聞いてきた。 
俺は中年女の迫力に押され、声を出すことが出来ず、無言で頷いた。 
警官はすぐに手錠をはめ、『貴様!放火未遂現行犯だ!』と言った。

手錠をはめられた後も、ずっと奇声を発し暴れていたが、警官が二人掛かりでパトカーに連行した。 
そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、『事情を説明します』と話し出した。 

 

802 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:27:36 ID:UOWDTjZwO

警官『自宅前をパトロールしてると、玄関に人影が見えまして、あの女なんですけど・・・しゃがみ込んで、ライターで火を付けていたんですよ。玄関先に古新聞置いてますよね?』 
母『いえ、置いてないですけど・・・?』
警官『じゃあ、これもあの女が用意したんですかねー?』と指差した。 
そこには新聞紙の束があった。確かに、うちがとっている新聞社の物では無かった。 
警官が『ん?』と何かに気付き、新聞紙の束の中から何かを取り出した。 

木の板。
それには『○○○焼死祈願』と、俺のフルネームが彫られていた。 
俺は全身に鳥肌が立った。やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。 
もし警察がパトロールしていなかったら・・・ と、少し気が遠くなった。 
母は泣きだし、俺を抱き締めて頭を撫で回してきた。 
警官はしばらく黙っていたが、
『実はあの女・・・少し精神的に病んでまして・・・○○町にすんでいるんですけど、結構苦情・・・まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ・・・』
と、中年女の事を語りだした。 

 

810 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:55:14 ID:UOWDTjZwO

『あの女、1年前に交通事故で、主人と息子を亡くしてまして・・・それ以来、情緒不安定と精神分裂症というか・・・まぁ近所との揉め事なども出てきだしましてね。山で発見された少女の写真で、あの女の特定は出来ていたんですよ。二年前の交通事故・・・あの少女が道路に飛び出してきて、ハンドルをきって壁に衝突。それで主人と息子が亡くなったんですよ・・・飛び出した少女は無傷で助かったんですが・・・以来、あの少女の家にも散々嫌がらせをしているんですよ。ただ事故が事故なだけに、少女の家からは被害届けはでてないんですが・・・あの少女を相当怨んでいるんでしょうね・・・』

俺はその話を聞き、同情などは一切出来なかった。
むしろ『中年女』の執念深さがヒシヒシと伝わってきた。 
何よりも、警官も認める情緒不安定・精神分裂症。
これでは、すぐに釈放になるのではないか? 
釈放後、また『中年女』の存在に怯え生きていかなければならないのか? 
警官の話を聞き、安堵感よりも絶望感が心に広がった。 

 

813 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 06:10:00 ID:UOWDTjZwO

それから5年。 
俺、慎、淳は、それぞれ違う高校に進んでいた。
俺達はすっかり会うことも無くなり、それぞれ別の人生を歩んでいた。 
もちろん、『中年女』事件は忘れることが出来ずにいたが、恐怖心はかなり薄れていた。 

そんな高一の冬休み、ひさしぶりに淳から電話が掛かってきた。
『おう!ひさしぶり!』
そんな挨拶も程ほどに、
『実は単車で事故ってさぁ・・・足と腰骨折って入院してんだよ』 
『え?!だっせーな!どこの病院よ?寂しいから見舞いに来いってか?』
『まぁ、それもあるんだけどさぁ・・・お前、『中年女』の事って覚えてる?事件の事じゃなくってさぁ・・・顔、覚えてる?』 
『何で?何だよ急に!』
『毎晩、面会時間終わってから・・・変なババァが、俺の事を覗きに来るんだよ・・・ニヤつきながら』 

 

889 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:07:08 ID:PxVIZDoHO

淳の発した言葉を聞いたとたんに、『中年女』の顔を鮮明に思い出した。 
始めて出会った、あの夜の歯を食いしばった顔。
下校時に出会った、いやらしいニヤついた顔。
自宅玄関で見た、狂ったような叫び顔。
あれから忘れる努力をしていたが、決して忘れることの出来ないトラウマだった。 
俺は淳に、『何言ってんだよ?!もう忘れろ!ほんっとオメーって気が小せぇーなぁ?!』と答えた。

自分自身にも言い聞かせるように。
『そーだよな・・・いや、こーゆーとこって、妙に気が小さくなるんだよ!』 
『そーゆーとこ、変わってねーな!』と余裕を見せた。
俺自身も、あの日のまま成長していないが。 

そして入院している病院を聞き、『近いうちに●本持って見舞いに行くよ!』と言い電話を切った。 
電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。
『中年女』 
淳の言葉が、妙に気に掛かりだした。 

 

890 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:12:16 ID:PxVIZDoHO

電話を切った後、しばらく考えた。 
まさか、今更『中年女』が現れるはずが無い・・・ 
それにあいつは捕まったはず・・・いや、釈放されたのか?? 
というか、今思えば俺達三人は、『中年女』に何をしたわけでも無い。 
ただ、『中年女』の呪いの儀式を見てしまっただけなのに、こちらの払った代償はあまりにも大きい。 
偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。

俺達は何一つ『中年女』から奪っていない。それどころか、傷付けてもいない。 
『中年女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、秘密基地を壊し、何より俺達三人に恐怖を植え付けた。 
『中年女』がいくら執念深いといっても、さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。 
こんなことを思うのも何だが、怨むなら写真の少女にベクトルが向くはず! 
俺は強引に、俺自身を納得させた。 

 

892 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:33:09 ID:PxVIZDoHO

2日後、俺はバイトを休み、本屋で●本を3冊買ってから、淳の入院している病院に向かった。 
久しぶりに淳に会うというドキドキ感と、淳が電話で言っていた事に対するドキドキ感で、複雑な心境だった。

病院に着いたのは昼過ぎだった。 
淳の病室は三階。俺は淳のネームプレートを探し出した。 
303号室の六人部屋に淳の名前があった。 
一番奥、窓側の向かって左手に淳の姿が見えた。 
『よう!淳、久しぶり!』
『おう!まぢひさしぶりやなぁ!』
思ったより全然元気な淳を見て少し安心した。 
約束のエロ本を渡すと、淳は新しい玩具を与えられた子供の如く喜んだ。 
そして他愛も無い話を色々した。 
淳といると、小学生の頃に戻ったようでとても楽しかった。無邪気に笑えた。 

あっという間に時間は経ち、面会終了時間が近づいてきた。 
『んぢゃ、もうそろそろ帰・・・』と俺が言いかけると、
『実はさぁ、電話でも言ったんだけど』と淳が、真顔で何かを言いかけた。 

 

893 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:44:17 ID:PxVIZDoHO

『中年女の事だろ?』と俺は言った。
すると淳は、
『気のせいだとは思うんだけど・・・いつもこの時間に来るオバさんがいてさぁ・・・何かこう・・・引っ掛かるっつーか・・・』

俺は『だから気のせいだって!ビクビクすんなよ!』と強気な発言をした。 
すると淳は少しカチンと来たのか、
『だから、勘違いかもしんねーっつってんぢゃん!ビビりで悪かったな!』
空気が重くなった。 
俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。

そのとき、
ガラガラガラ・・・
廊下に、台車のタイヤ音が響いた。 
淳が『来た・・・』とつぶやく。 
俺は視線を部屋の入口に向けた。 
ガラガラガラ 
台車は扉の前に止まったようだ。 

そして、扉が開いた。 
そこには、上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。 
俺は『何だよ!脅かすなよ!ゴミ回収のオバさんじゃねーか』と、少し胸を撫で降ろした。 
そのオバさんは、患者個人個人のごみ箱のゴミを回収しだし、最後に淳のベットに近づいてきた。 
淳が小声で『見てくれよ!』
俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。 

 

894 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:49:40 ID:PxVIZDoHO

『・・・!』
俺は息を飲んだ。 
似ている・・・いや、『中年女』なのか? 
俺は目が点になり、しばらくその人を眺めていると、
そのオバさんはこちらを向き、ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。 
淳が『どう?やっぱ違うか?!俺ってビビりすぎ?』と聞いてきた。 
俺は『全然ちげーよ!ただの掃除オバさんぢゃん!』と答えた。
いや、しかし似ていた。他人の空似なのか・・・? 

 

215 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/09(火) 00:11:08 ID:nBGSDY0VO

『・・・んぢゃ、そろそろ帰るわ!あんま変な事考えてねーで、さっさと退院しろよ!』と俺が言うと淳は、
『そだな・・・あの女が病院にいるわけねーよな。お前が違うって言うの聞いて安心したよ。また来てくれよ!暇だし!』
と元気よく言った。

俺は病室を出ると、足早に階段を駆け降りた。 
頭の中から、さっきのオバさんの顔が離れない。 
『中年女』の顔は鮮明に覚えている。 
しかし、中年女の一番の特徴といえば、イッちゃってる感だ。 

さっきのオバさんは穏やかな表情だった。 
もし、さっきのオバさんが『中年女』なら、
俺の顔を見た瞬間にでも奇声をあげ、襲い掛かって来てもおかしくない。 
そうだ。やっぱり他人の空似なんだ。
と考えつつ、なぜが病院にいるのが怖く、早々に家路についた。 

 

522 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/10(水) 05:08:36 ID:r7yve5IpO

家に帰ってからも『中年女』=『掃除オバさん』の考えは払拭しきれなかった。 
やはり気になる・・・ 
その日は眠りに落ちるまで、その事ばかり考えていた。

次の日、『掃除オバさん』の事が気になり、俺はバイトを早めに切り上げ、病院に行くことにした。 
俺のバイト先からチャリで30分。
病院に着いたときには20時を回っていて、面会時間も過ぎていた。 
もう、『掃除オバさん』も帰っている事は明白だったが、
臨時入口から病院に入り、とりあえず淳の病室に向かった。 

こっそり淳の病室に入ると、淳のベットはカーテンを閉めきってあった。 
寝たのか?と思い、そーっとカーテンを開けて、隙間から中を覗いた。 
『うわっ!』
淳が慌てて飛び起き、『ビックリさせんなよ!』と言いながら、何かを枕の下に隠した。 
淳は●本を熟読していたようだ。

 

523 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/10(水) 05:11:16 ID:r7yve5IpO

俺は敢えて●本の事には触れずに、『暇だろーと思って来てやったんだよ!』と淳の肩を叩いた。 
淳は少し気まずそうに、『おぅ!この時間暇なんだよ!ロビーでも行って茶でもしよか?』と言った。 
俺は車椅子をベットの横に持って来て、淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。 
淳が『ロビー一階だから、ナースに見つからんよーに行かんとな!』と小声で言った。 
俺達はコソコソと、まるで泥棒の様に一階ロビーに向かった。 
途中、何人かのナースに見つかりそうになる度、気配を消し、物陰に隠れ、やっとの思いでロビーに着いた。 

昼間と違いロビーは真っ暗で、明かりといえば自販機と非常灯の明かりしかなく、
淳が『何か暗闇の中をお前とコソコソするの、あの夜を思い出すよなぁ』と言った。 
『そだな。何であの時、アイツの事を尾行しちまったんだろーな・・・』と俺が言うと、淳は黙り込んだ。 

 

525 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/10(水) 05:18:19 ID:r7yve5IpO

俺は今日病院に来た理由、すなわち、『掃除オバさん』の事について淳に言おうと思ったが、躊躇していた。
淳はこの先、1ヵ月近く此処に入院するのに、そのような事を言うのは・・・と。 
またあの時のように、原因不明のジンマシンが出るかもしれない。

すると淳が、『お前、あのおばさんの事で来たんじゃないのか?』と。 
俺はとっさに『え?何が?』ととぼけたが、
淳は『そーなんだろ?やっぱり似てる・・・いや、『中年女』かもしれないんだろ?』と、真顔で詰め寄って来た。
俺はその淳の迫力におされ、『たしかに似てた・・・雰囲気は全然違うけど・・・似てる』
淳はうつむき、『やっぱり。前にも電話で言ったけど・・・』と語り始めた。

 

653 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/12(金) 18:32:27 ID:ywb0WCOQO

淳は少し声のトーンを下げ、
『俺が入院して二日目の夜、足と腰が痛くて痛くてなかなか眠れなかったんだ。寝返りもうてないし、消灯時間だったし、仕方ないから、目つむって寝る努力をしていたんだ。そして少し睡魔が襲ってきて、ウトウトし始めたとき、視線を感じたんだ。見回りの看護婦だろうと思って無視してたんだけど、なんか、ハァ・・・ハァ・・・って息遣いが聞こえてきて、何だろう?隣の患者の寝息かなぁ?って思って、薄目を開けてみたんだよ。そしたら、俺のベットカーテンが3㌢程開いてて、その隙間から誰かが俺を見ていたんだ。その目は明らかに、俺を見てニヤついてる目だったんだ。俺、恐くて恐くて、寝たふりしてたんだけど・・・そして、そのまま寝てたらしく、気付いたら朝だったんだ。後から考えたんだ。あのニヤついた目、どこかで見覚えが・・・そーなんだよ。『掃除オバさん』の目にそっくりだったんだよ!』

 

656 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/12(金) 18:38:25 ID:ywb0WCOQO

ニヤついた目。俺はその目を知っている! 
『中年女』に、そのニヤついた目つきで見つめられた事のある俺には、すぐに淳の言う光景が浮かんだ。 
更に淳は話を続けた。 
『それにあの『掃除オバさん』、ゴミ回収に来た時、ふと見ると、何かやたら目が合うんだ。俺がパッと見ると、俺の事をやたら見ているんだ。半ニヤけで・・・』
それを聞き、俺が抱いていた疑問、『中年女』=『掃除オバさん』は確信に変わった。 
やっぱりそうなんだ。社会復帰していたんだ!
缶コーヒーを握る手が少し震えた。決して寒いからでは無い。体が反応しているんだ。 
あの恐怖を体が覚えているんだ・・・。 

 

701 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:00:57 ID:kgXMFP4hO

その時、俺の後方から突如、光が照らされた。 
『コラ!』
振り向くと、そこには見回りをしている看護婦が立っていた。 
『ちょっと淳君!どこにもいないと思ったらこんなとこに!消灯時間過ぎてから、勝手に出歩いちゃダメって言ってるでしょ!それに、お友達も面会時間はとっくに過ぎてるでしょ!』
と、かなり怒っていた。 

淳は『はいはい・・・んぢゃ、また近いうちに来てくれよな!』と、看護婦に車椅子を押され病室に戻って行った。
『おぅ!とりあえず、気つけろよ!』と言った。 
俺もとりあえず帰るかと思い、入って来た急患用出入口に向かった。 

それにしても、夜の病院は気味が悪い。
さっきまであの女の話をしていたからか?と思って歩いていると、
ん?廊下の先に誰かがいる。 
あれは・・・
『掃除オバさん』・・・? 
いや、『中年女』か? 
『中年女』らしき女が何かしている。

 

704 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:07:18 ID:kgXMFP4hO

間違いない!『中年女』だ!
この先の出入口付近で何かしている! 
俺はとっさに身を隠し、『中年女』の様子を伺った。 
どうやら俺には気付かず、何かをしているようだ。 
中腰の態勢で何かをしている。
俺は目を凝らし、しばらく観察を続けた。 

何か大きな袋をゴソゴソし、もう一方に小分けしている? 
尚も『中年女』はこちらに気付く様子も無く、必死で何かしている。 
ひょっとして、病院内の収拾したゴミの分別をしているのか?
(俺達の地元は、ゴミの分別がルールとなっている) 

その時に後ろから、
『ちょっと、まだいたの?私も遊びじゃないんだから、いい加減にして!』と、さっきの看護婦が。 
俺はドキッとし、『あ、いや、帰ります!どーも・・・』と言い、出入口に目をやると、
『中年女』はこちらに気付き、ジィーっとこちらを見ていた。 

 

706 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:09:33 ID:kgXMFP4hO

『全く!』
看護婦はそう吐き捨て、再び見回りに行った。 
いや、それどころでは無い!『中年女』に見つかってしまった! 
どうすればいい?
逃げるべきか?
先程の看護婦に助けを求めるべきか?

俺の頭はグルグル回転し始め、心臓は勢いを増しながら鼓動した。 
俺は『中年女』から目を離せずにいると、『中年女』は俺から視線を外し、
何事も無かったように、再びゴミの分別作業をし始めた。 
『え!?』
俺は躊躇した。その想定外の行動に。
俺の頭には、 
『襲い掛かってくる』 
『俺を見続ける』 
『俺を見てニヤける』 
と、相手が俺に関わる動向を見せると思っていたからである。

俺はしばらく突っ立ったまま、『中年女』を見ていたが、
黙々とゴミの分別をしていて、俺のことなど気にしていないようだった。 
『何かの作戦か?』と疑ったが、俺の脳裏にもう一つの思考が浮かんだ。 
『中年女』≠『掃除オバさん』? 
やはり、似ているだけで別人・・・?! 

 

708 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:11:46 ID:kgXMFP4hO

俺と淳が疑心暗鬼になりすぎていたのか?!
やはり『中年女』とは赤の他人の別人なのか? 
そう一人で俺が考えている間も、その女は黙々と仕事をしている。 
俺は意を決して、出入口に歩き出した。すなわち、『その女』の近くに・・・

少しずつ近づいてくるが、相手は一向にこちらを見る気配が無い。
しかし、俺はその女から目を離さず歩いた。
あっという間に何事も無く、俺はその女の背後まで到達した。 
女は一生懸命ゴミの分別をしている。
手にはゴム手袋をハメて、大量のゴミを『燃える』『燃えない』『ペットボトル』に分けていた。
 
その姿を見て俺は、やはり別人か・・・と思っていると、
その女はバッ!っとこちらを見て、『大きくなったねぇ~』と俺に話し掛けてきた。 
俺は頭が真っ白になった。
大きくなったねぇ?オオキクナッタネェ?
この人は俺の過去を知っている?? 
この人、誰? 
この人、『中年女』? 
こいつ、やっぱり『中年女』!! 

 

709 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:14:23 ID:kgXMFP4hO

その女は作業を中断し、ゴム手袋を外しながら俺に近寄ってくる。 
その表情はニコニコしていた。 
俺はどんな表情をすればいい??? 
きっと、とてつもなく恐怖に引きつった顔をしていただろう。 
女は俺の目前まで歩み寄って来て、
『立派になって・・・もう幾つになった?高校生か?』と尋ねてきた。 
俺はこの女の発言の意味が判らなかった。 

何なんだ?
俺をコケにしているのか? 
恐怖に引きつる俺を馬鹿にしているのか? 
何なんだ?
俺の反応を楽しんでいるのか? 

俺が黙っていると、
『お友達も大きくなったねぇ・・・淳くん。可哀相に骨折してるけど。お兄ちゃんも気付けなあかんよ!』
と言ってきた。 
もう、意味が全く解らなかった。数年前、俺達に何をしたのか忘れているのか?
俺達に恐怖のトラウマを植え付けた本人の言葉とは思えない。 
女は尚もニヤニヤしながら、『もう一人いた・・・あの子、元気か?色黒の子いたやん?』
『!!』慎の事だ! 
何なんだコイツは! 
まるで久しぶりに出会った旧友のように。
普通じゃない。
わざとなのか? 
何か目的があって、こんな態度を取っているのか? 

 

898 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M :2006/05/16(火) 05:10:19 ID:RGbZkkkIO

俺は『中年女』から目を逸らさず、その動向に注意を払った。 
こいつ、何言ってるのか分かってるのか?
『あの時はごめんね・・・許してくれる?』と中年女は言いながら、俺に近づいてくる。 
俺は返す言葉が見つからず、ただ無言で少し後退りした。
『ほんまやったら、もっと早くあやまらなあかんかってんけど・・・』
俺は耳を疑った。

こいつ、本気で謝罪しているのか?
それとも何か企んでいるのか? 
ついに『中年女』は、手を伸ばせば届く範囲にまで近づいてきた。 
『三人にキチンと謝るつもりやったんやで・・・ほんまやで・・・』と言いながら、ますます近づいてくる! 
もう息がかかる程の距離にまで近づいた。 
あの時とは違い、俺の方が身長は20㌢程高く、体格的にも勿論勝っている。 
俺は『中年女』に指一本でも触れられたら、ブッ飛ばしてやる!と考えていた。 

 

902 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M :2006/05/16(火) 05:54:02 ID:RGbZkkkIO

『中年女』は俺を見上げるような形で、俺の目を凝視してくる。 
しかし、その目からは『怨み』『憎しみ』『怒り』など感じられない。 
真っ直ぐに俺の目だけを見てくる。 
『あの時はどうかしててねぇ、酷い事したねぇー・・・』と、『中年女』は謝罪の言葉を並べる。 
俺はもう、 その場の『緊張感』に耐えれず、ついに走りだし、その場を去った。 

走ってる途中、もし追い掛けられたら・・・と後ろを振り向いたが、『中年女』の姿は無く、
ある意味拍子抜けた。
走るのを止め、立ち止まり考えた。 
さっきのは、本当に本心から謝っていたのか? 
俺は『中年女』を信じることが出来なかった。疑う事しか出来なかった。
まぁ、あの事件の事があるから当たり前だが。 

俺は小走りで、先程の場所近くに戻ってみた。 
そこには再びゴム手袋をはめ、大量のゴミの分別をする『中年女』の姿があった。 
こいつ、本当に改心したのか?
必死に作業をする姿を見ると、昔の『中年女』とは思えない。 
とりあえず、その日はそのまま帰宅した。 

 

186 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/25(木) 09:13:15 ID:JIG/s1vbO

俺は自室のベットに横になり、一人考えた。 
人間は、あそこまで変わることが出来るのか?
昔、鬼の形相でハッピー・タッチを殺し、俺を、慎を、淳を追い詰め、放火までしようとした奴が。
『ごめんね』など、心から償いの言葉を発することが出来るのか。 

いや、ひょっとしてあの事件をきっかけに、俺が変わってしまったのか?
疑心暗鬼になり、他人を信じる事が出来ない、『冷たい人間』になってしまったのか? 
『中年女』の謝罪の言葉を信じることで、あの事件の精神的な呪縛から解放されるのか? 
もう一度『中年女』に会い、直接話すべきだ。
俺は『中年女』にもう一度会うこと、今度は逃げないこと!と決意を固め、その日は就寝した。 

 

187 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/25(木) 09:15:28 ID:JIG/s1vbO

次の日、俺はバイトを休み病院に行った。 
まずは淳の病室に入り、昨日の出来事を説明した。
そして、今日は『中年女』に会い、直接話してみるつもりだ。と言う事を伝えた。 
淳は最初、「『中年女』は変わっていない!」と俺の意見に反対だったが、
『このまま一生、中年女の存在に怯え、トラウマを抱えたまま生きていくのか?』と俺が言うと、 
『・・・『中年女』に会って話すんだったら、俺も付き合う・・・』と言ってくれた。 

 

218 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 02:59:44 ID:/lsJmPn1O

しばらく沈黙が続いた。 
刻々と時間は過ぎ、面会時間終了のチャイムが鳴ると同時に、
ガラガラガラ・・・
廊下の奥の方から、ゴミ運搬台車の音が聞こえてきた。 
『来たな・・・』 
淳がボソッと呟いた。 

俺は固唾を飲んで、部屋の扉へ視線を送った。 
ガラガラガラ
台車の音が部屋の前で止まった。 
部屋の扉が開いた。 
作業服の『中年女』、が会釈しながら入室してきた。俺と淳はその姿を目で追った。 
『中年女』は、奥のベットから順にゴミ箱のゴミを回収し始めた。 
『ごくろうさん』と患者から声を掛けられ、笑顔で会釈をする中年女。
とても昔の『中年女』と同一人物とは思えない。 

そしてついに、淳のベットのゴミ回収に『中年女』がやってきた。

 

219 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:20:27 ID:/lsJmPn1O

『中年女』はこちらに一切目を合わせず、軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。 
俺は何と声を掛けていいのかわからず、しばらく中年女の様子を伺っていたが、
淳が『おばさん!どーゆーつもりだよ?』と 切り出した。 
中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。

淳は続けて、『あんた、俺の事覚えてたんだろ?俺には謝罪の言葉一つも無いの?』
俺はドキドキした。まさか淳が急にキレ口調で話すなんて、予想外だった。 
中年女は俯いたまま、『ごめんねぇ・・・』と、か細い声を出した。 
淳はその素直な返答に驚いたのか、キョトンとした目で俺を見て来た。

俺は『おばさん・・・本当に反省してるんだよね?』と聞いてみた。 
すると中年女はこちらを向き、
『本当にごめんなさい。私があんな事したから淳君、こんな事故に遭っちゃって・・・私があんな事したから・・・ほんとゴメンね!』と。 
俺と淳は更にキョトンとした。何か話がズレてないか? 
俺は『いや、昔あんた、犬に酷い事したり、俺ん家にきたり、すべてひっくるめて!』と言った。 

 

221 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:44:26 ID:/lsJmPn1O

中年女は、
『本当にごめんなさい!私が、私があんな事さえしなければ・・・こんな事故・・・ごめんね!本当にごめんね!』
と、泣きそうな声で言った。 

その態度、会話を聞いていた病室内の患者の視線が、一斉にこちらに注目していた。 
静まり返った病室に、『ゴメンね!ごめんなさい!ゴメンなさぃ!』と、中年女の声だけが響いた。 
淳は少し恥ずかしそうに、『もういいよ!だいたい、俺が事故ったの、アンタとは一切関係ねーよ!』と吐き捨てた。
中年女はペコペコ頭を下げながら、淳のベットのゴミを回収し、
最後に『ごめんなさい・・・』と言い、そそくさと病室から出て行った。 

その光景を周りの患者が見ていたので、しばらく病室は変な空気が流れた。 
淳は『何なんだよ!あのオバハン!俺は普通に事故っただけだっつーの。何勘違いしてやがんだよ!』
と言いながら枕をドツイた。 
俺は『中年女』の行動、言動を聞いていてハッキリと思った。 
やはり『中年女』は少しおかしい。
いや、謝罪は心からしているのだろうが、アイツは呪いの儀式を行った事を謝っていた。 
呪いを本気で信じているようだった。 

 

222 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:58:35 ID:/lsJmPn1O

淳は、
『あの頃は無茶苦茶怖い存在やって、今だにトラウマでビビってたけど、さっき喋って思ったんは、単なるオカルト信者のオバはんやって事やな!』
と、何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。 

俺は『あぁ昔と違って、俺らの方が体もデカくなったしな!』と調子を合わせた。 
『さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ!』
『おぅ!また暇な時来てや!』
と言葉を交わし、俺は病室を出た。 

家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。 
アイツにもこの事を伝えてやろうと。 
アイツも今回の話を聞かせてやれば、あの日のトラウマが無くなるのでは無いか、と。

 

250 :247の前:2006/06/02(金) 02:39:56 ID:6rqtwJH50
名前:『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:06/06/01 02:47:31 ID:HcpydJoy

家に帰り早速、慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、慎の携帯番号を聞いた。 
そして慎の携帯に電話を掛けた。
『おう!ひさしぶり!』 
なつかしい慎の声。 

俺はしばし慎と、最近どうよ?的な話をした後、
淳が事故って入院したこと、その病院に『中年女』が清掃員として働いていること、
『中年女』が昔と別人のように、心を入れ替えている事を話した。 
慎は『中年女』が謝罪してきたことに対し、たいそう驚いていた。 
そして最後に慎は、『淳が退院したら三人で快気祝いをしよう』と言った。 
もちろん俺は賛成し、『淳の退院のメドがつき次第連絡する』と伝えた。 

その翌日、俺は病院に行き、
淳に『慎がおまえの退院が決まり次第、こっちに帰って来て快気祝いしようってよ!』と伝えた。 
淳はたいそう喜んでいた。

 

247 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/02(金) 00:51:34 ID:Cc3LUK3SO

それから一週間程、病院に見舞いには行っていなかった。 
別に理由は無いが、新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。 
それに『中年女』が更正(?)しているようだったので、心配も以前ほどはしていなかった。 
何かあれば、淳から電話があるだろうと思っていた。 

そんなある日、淳から電話が掛かってきた。 
内容は、『来週退院する!』との事だった。 
俺は『良かったな!』と祝福の言葉と共に、『中年女』の動向を聞いたが、
『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない』との事だった。 

そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。
俺は学校帰りに、淳の家に立ち寄った。
チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。 
『おぅ!上がれよ!』
足にはギブスをはめたままだったが、すっかり元気そうだった。 
淳の部屋でしばし雑談をした。

夕方になり俺は帰宅。夕飯を喰った後、慎に電話をした。 
『淳、退院したぜ!』
『まぢ!そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな!すぐにでも行きたいけど、部活が忙しいから、月末頃にそっち行くよ!』
との事だった。 

 

280 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:40:06 ID:ZlsKc24yO

そして月末の土曜日。 
俺、慎、淳。
小学校以来、久しぶりの三人での再会だった。 
昼に駅前のマクドで落ち合った。 
久しぶりに会った慎は、冬なのに浅黒く日焼けし、少しギャル男気味だった。 
まぁそれはさておき、夕方まで色々と語った。 
それぞれの高校の話。
恋の話。
昔の思い出話・・・ 

もちろん、『中年女』の話題も出てきた。 
あの時、それぞれが何よりも恐ろしく感じていた『中年女』も、今となればゴミ回収のおばさん。 
病院での出来事を、俺と淳が慎に詳しく話してやると、
慎は『あの頃と違って、今ならアイツが襲って来てもブッ飛ばせるしな!』と笑いとばした。 
もう俺達にとって『中年女』は過去の人物、遠い昔話で、トラウマでも無くなっていた。 

 

282 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:59:26 ID:ZlsKc24yO

夕方になり、俺達はカラオケBOXに行った。
久しぶりの三人での再会と言うこともあり、俺達は再会を祝して酒を注文した。 
まぁ酒と言っても酎ハイだが・・・
当時の俺達は充分に酔えた。 
各々、4、5杯ぐらい飲み、皆ほろ酔いだった。 
いい気分で歌を歌い、かなりHIGHテンションだった。 

そして二時間経ち、歌にも飽き出した時、慎がある提案をした。 
『よーし、今から秘密基地に行くぞ!あの時、見捨てちまったハッピーとタッチの供養をしに行くぞ!』と。 
一瞬、空気が凍った。 
俺も淳も言葉を失った。 
まさか、あの場所に行こうなんて、予想外の発言だったから。 
慎はそんな俺達を挑発するように、
『オメーら変わってねーな!まぢでビビっんの?!ハハッ!』と、少し悪酔い?していた。 
その言葉に酔っ払い淳が反応し、『あ?誰がビビるかよ!喧嘩売ってんのか慎?』とキレ出した。 

 

283 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 02:18:28 ID:ZlsKc24yO

俺は酔いながらも空気を読み、
『おいおい、やめとけって!第一、淳まだ杖突いてんだぜ?』と言うと慎がすかさず、
『あ、そっか。杖ツイてちゃ逃げれねーしな。ハハハ♪』と、かなりの悪酔いしていた。 
淳は益々ムキになり、
『うるせーよ!行きてーんなら行ってやるよ!お前こそ途中でビビんぢゃねーぞ?』 
と、まるで子供の喧嘩のようになり、
結局『ハッピーとタッチの冥福を祈りに』と言う名目で行くことになった。 
慎、淳は二人とも結構酔っていたのと、引くに引けなかったんだと思う。 
まぁ、ハッピーとタッチの供養はいずれしなければならないと思っていたので、いい機会かもと少し思った。
三人なら恐さも薄れるし。

カラオケBOXを出てコンビニに寄り、あの2匹が大好きだった『うまい棒』と『コーラ』を買い込み、
タクシーで一旦俺の家に寄り、照明道具を取って来てから、あの裏山へ向かった。 

 

293 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 10:37:00 ID:UBma/3yTO

タクシー運転手に怪しげな目で見られつつ、山の入口でタクシーを降りた。 
俺は三人でよく遊んだ裏山という懐かしさと共に、あの日の出来事を思い出した。 
こんな夜更けに、また入ることになるとは・・・ 
そんな俺の気持ちも知らずに、淳は意気揚々と『さぁ、入ろうぜ!』と、杖を突きながらズカズカと入っていく。
その後ろをニヤニヤしながら慎が、明かりを燈しながらついて行った。 
俺は『淳、足元気つけろよ!』と言い、慎に続いた。 

いざ山に入ると、昔と景色が変わっていることに驚いた。 
いや、景色が変わったのでは無く、俺達がデカくなったから景色が変わって見えているのか? 
登山途中、慎が淳をからかうように、
『中年女がいたらどーする?俺、お前置いて逃げるけど♪』等、冗談ばかり言っていた。
思いの外スムーズに進め、30分程であの場所に到達した。 

 

295 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 11:27:49 ID:UBma/3yTO

初めて『中年女』と会った場所。
俺達は黙り込み、ゆっくりと明かりを燈しながら、あの樹に近づいた。 
あの日、中年女が呪いの儀式をしていた樹・・・ 
間近に寄り、明かりを燈した。
今は何も打ち込まれておらず、普通の大木になっていた。 
しかし、古い釘痕は残っていた。所々、穴が開いていた。 
恐らく、警察がすべて抜いたのだろう。

しばらく三人で釘痕を眺めていた。 
そして慎が、『ここらへんでハッピーが死んでたんだよな・・・』と、地面を照らした。 
さすがにもうハッピーの遺体は無かったが、ハッキリとその場所は覚えている。
俺はその場に『うまい棒』と『コーラ』を供えた。 
そして三人で手を合わせ、次は『タッチ』の元へ。
秘密基地跡へ向かった。 

 

320 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:30:31 ID:dXfc2GpkO

秘密基地に向かう途中、淳が『色々あったけど、やっぱ懐かしいよな』とポツリと言った。 
すると慎が、『あぁ。あの夜、秘密基地に泊まりに来なければ、嫌な思い出なんて無かっただろうな』と言った。
確かに。この山で『中年女』に会わなければ、ここは俺達にとっては聖地だったはずだ。 

『ここらへんだったよな・・・』
慎が立ち止まった。 
秘密基地跡地。
もう跡形も無かった。あの日バラバラにされていた材木すら、一枚も無かった。 
淳が無言でしゃがみ込み、『うまい棒』『コーラ』を置き、手を合わせた。 
俺と慎も手を合わせた。

しばらく黙祷したのち、慎が言った。
『ハッピーとタッチがいなけりゃ・・・今頃俺達いなかったかもな』
淳『あぁ・・・』
俺『そうだよな・・・結局、『中年女』も更正して、なんだか、やっと悪夢から解放された感じだな』
しばらく沈黙が続いた。

ふと慎が、周囲や目の前の池を電灯で照らし、
『この場所、あの頃は俺らだけの秘密の場所だったのに、結構来てる奴いるみたいだな』と。
慎が燈す場所を見ると、スナック菓子の袋や空き缶が、結構落ちていることに気付いた。 

 

323 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:53:04 ID:dXfc2GpkO

俺は『ほんとだな。あの頃はゴミなんて全然無かったもんな。今の小学生、この場所しってんのかな?』と言った。
淳が続けて、『あの時は俺ら、まじめにゴミは持ち帰ってたもんな』と言った。 
その時、慎が『うわっ!何だこれ!』と叫んだ。 
俺と淳はその声に驚き、慎の照らす明かりの先に視線をやった。 
一本の木に、何やらゴミが張り付いている。 
よく見ると、無数の菓子袋や空き缶、雑誌が木に釘で打ち付けられていた。 

『なんだこれ?!』

慎が明かりを照らしながら近づいていった。 
俺と淳も後をついて行った。 
『誰かのイタズラ??』
俺はマヂマヂと、打ち付けられたゴミを見た。 
その時、
『あぁぁぁ・・・これ・・・俺の、ゴミぃ・・・ぁぁぁぁあ・・・』 
と、淳が震えた声で言いながら硬直した。 
『は?!』
俺と慎は聞き直した。
淳は、『あ゛ぁぁぁ・・・俺が、病院で捨てた・・・あぁぁ・・・』と言いながら後ずさりした。 

 

325 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:06:39 ID:dXfc2GpkO

慎が『おい!淳!しっかりしろ!んなわけねーだろ!』と怒鳴りながら、釘で打たれた一枚の菓子袋を引きちぎった。
それを見て淳は、『あー、ぁあぁ・・・』と奇妙な声を出し、尻餅を付いた。 
その行動に俺と慎は呆気に取られたが、次の瞬間『うわっ!』と、慎が手に持っていた袋を投げた。 
『え?!』と俺がその袋に目をやると、袋の裏に『淳呪殺』とマジックで書かれていた。 
俺はまさか?と思い、木に釘打たれたゴミを片っ端から引き剥がし、裏を見た。 

『淳呪殺』 
『淳呪殺』 
『淳呪殺』 
『淳呪殺』 

すべてのゴミに書かれていた。 
淳は口をパクパクさせながら、尻餅を付いた状態で固まっていた。 
慎が何気に周囲に落ちていたゴミを拾い、『おい!これ!』と俺に見せてきた。 

『淳呪殺』 

なんと、周囲に落ちているゴミにも書かれていた。

 

328 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:21:17 ID:dXfc2GpkO

俺はその時、初めて気付いた。 
『中年女』は更正なんて、はじめからしていなかったんだ。ずっと俺達を怨んでいたんだ。 
病院でゴム手袋をして必死で分別していたのも、淳のゴミだけを分けていたんだ! 
俺達に『ごめんね』と言っていたのも全部嘘だったんだ。 
俺は急にとてつもなく寒気を感じ、此処にいてはいけない!と本能的に思い、
淳に『おい!しっかりしろ!行くぞ!』と言ったが、
『俺の・・・ゴミ・・・俺のゴミ・・・』と、淳は壊れていた。発狂していた。 
とりあえず慎と俺で淳を担ぎ、山を降りた。 

あれから8年、あの日以来、もちろん山には行っていない。 
『中年女』とも会っていない。 
まだ俺達を怨んでいるんだろうか? 
どこかで見られているんだろうか? 

しかし、俺達三人は生きている。 
ただ、未だに淳は歩く事が出来ない。

【洒落怖名作】リゾートバイト

そしてあろうことか、たいした話ではない。
死ぬほど暇なやつだけ読んでくれ。

忠告はしたので、はじめる。

これは俺が大学3年の時の話。
夏休みも間近にせまり、大学の仲間5人で海に旅行に行こうって計画を立てたんだ。

計画段階で、仲間の一人がどうせなら海でバイトしないかって言い出して、
俺も夏休みの予定なんて特になかったから二つ返事でOKを出した。
そのうち2人は、なにやらゼミの合宿があるらしいとかで、バイトはNGってことに。

結局、5人のうち3人が海でバイトすることにして、残り2人は旅行として俺達の働く
旅館に泊まりに来ればいいべって話になった。

それで、まずは肝心の働き場所を見つけるべく、3人で手分けして色々探してまわることにした。

ネットで探してたんだが、結構募集してるもんで、友達同士歓迎っていう文字も多かった。
俺達はそこから、ひとつの旅館を選択した。

もちろんナンパの名所といわれる海の近く。そこはぬかりない。

電話でバイトの申し込みをした訳だが、それはもうトントン拍子に話は進み、
途中で友達と2日間くらい合流したいという申し出も、
「その分いっぱい働いてもらうわよ」
という女将さんの一言で難なく決まった

計画も大筋決まり、テンションの上がった俺達は、そのまま何故か健康ランドへ直行し、
その後友達の住むアパートに集まって、風呂上りのツルピカンの顔で、ナンパ成功時の行動などを綿密に打ち合わせた。

そして仲間うち3人(俺含む)が旅館へと旅立つ日がやってきた。
初めてのリゾートバイトな訳で、緊張と期待で結構わくわくしてる僕的な俺がいた。

旅館に到着すると、2階建ての結構広めの民宿だった。
一言で言うなら、田舎のばーちゃんち。
○○旅館とは書いてあるけど、まあ民宿だった。○○荘のほうがしっくりくるかんじ。

入り口から声をかけると、中から若い女の子が笑顔で出迎えてくれた。
ここでグッとテンションが上がる俺。

旅館の中は、客室が4部屋、みんなで食事する広間が1つ、従業員住み込み用の部屋が2つで計7つの部屋が
あると説明され、俺達ははじめ広間に通された。

しばらく待っていると、若い女の子が麦茶を持ってきてくれた。
名前は「美咲ちゃん」といって、この近くで育った女の子だった。

それと一緒に入ってきたのが女将さんの「真樹子さん」。
恰幅が良くて笑い声の大きな、すげーいい人。もう少し若かったら俺惚れてた。

あと旦那さんもいて、計6人でこの民宿を切り盛りしていくことになった。

ある程度自己紹介とかが済んで、女将さんが言った。
「客室はそこの右の廊下を突き当たって左右にあるからね。
そんであんたたちの寝泊りする部屋は、左の廊下の突き当たり。
あとは荷物置いてから説明するから、ひとまずゆっくりしてきな。」

ふと友達が疑問に思ったことを聞いた。(友達をA・Bってことにしとく)
A「2階じゃないんですか?客室って。」

すると女将さんは、笑顔で答えた。
「違うよ。2階は今使ってないんだよ」

俺達は、今はまだシーズンじゃないからかな?って思って特に気に留めてなかった。
そのうち開放するんだろ、くらいに思って。

部屋について荷物を下ろして、部屋から見える景色とか見てると、
本当に気が安らいだ。これからバイトで大変かもしれないけど、
こんないい場所でひと夏過ごせるのなら全然いいと思った。
ひと夏のあばんちゅーるも期待してたしね。

そうして俺達のバイト生活が始まった。

大変なことも大量にあったが、みんな良い人だから全然苦にならなかった。
やっぱ職場は人間関係ですな。

1週間が過ぎたころ、友達の一人がこう言った。
A「なあ、俺達良いバイト先見つけたよな。」

B「ああ、しかもたんまり金はいるしな」

友達二人が話す中俺も、
俺「そーだな。でももーすぐシーズンだろ?忙しくなるな。」

A「そういえば、シーズンになったら2階は開放すんのか?」

B「しねーだろ。2階って女将さんたち住んでるんじゃないのか?」

俺とAは
A俺「え、そうなの?」と声を揃える。

B「いやわかんねーけど。でも最近女将さん、よく2階に飯持ってってないか?」
と友達が言った。

A「知らん」
俺「知らん」

Bは夕時、玄関前の掃き掃除を担当しているため、2階に上がる女将さんの姿を
よく見かけるのだという。
女将さんはお盆に飯を乗っけて、そそくさと2階へ続く階段に消えていくらしい。

その話を聞いた俺達は、
「へ~」
「ふ~ん」
みたいな感じで、別になんの違和感も抱いていなかった。

それから何日かしたある日、いつもどおり廊下の掃除をしていた俺なんだが、
見ちゃったんだ。客室からこっそり出てくる女将さんを。
女将さんは基本、部屋の掃除とかしないんだ。そうゆうのするのは全部美咲ちゃん。
だから余計に怪しかったのかもしれないけど。

はじめは目を疑ったんだが、やっぱり女将さんで、その日一日もんもんしたものを
抱えていた俺は、結局黙っていられなくて友達に話したんだ。

すると、Aが言ったんだよ、
A「それ、俺も見たことあるわ」

俺「おい、マジか。なんで言わなかったんだよ」

B「それ、俺ないわ」

俺「じゃー黙れ」

A「だってなんか用あるんだと思ってたし、それに、疑ってギクシャクすんの嫌じゃん」

俺「確かに」

俺達はそのとき、残り1ヶ月近くバイト期間があった訳で。
3人で、見てみぬふりをするか否かで話し合ったんだ。

そしたらBが
「じゃあ、女将さんの後ろつけりゃいいじゃん」
ていう提案をした。

A「つけるってなんだよ。この狭い旅館でつけるって現実的に考えてバレるだろ」

B「まーね」

俺「なんで言ったんだよ」

AB俺「・・・」

3人で考えても埒があかなかった。
来週には残りの2人がここに来ることになってるし、何事もなく過ごせば
楽しく過ごせるんじゃないかって思った。
だけど俺ら男だし。3人組みだし?ちょっと冒険心が働いて、「なにか不審なものを見たら報告する」ってことで
その晩は大人しく寝たわけ。

そしたら次の日の晩、Bがひとつ同じ部屋の中にいる俺達をわざとらしく招集。
お前が来いや!!と思ったが渋々Bのもとに集まる。

B「おれさ、女将さんがよく2階に上がるっていったじゃん?あれ、最後まで見届けたんだよ。
いつも女将さんが階段に入っていくところまでしか見てなかったんだけど、昨日はそのあと出てくるまで
待ってたんだよ」

B「そしたらさ、5分くらいで降りてきたんだ。」

A「そんで?」

B「女将さんていつも俺らと飯くってるよな?それなのに盆に飯のっけて2階に上がるってことは、
誰かが上に住んでるってことだろ?」

俺「まあ、そうなるよな・・・」

B「でも俺らは、そんな人見たこともないし、話すら聞いてない」

A「確かに怪しいけど、病人かなんかっていう線もあるよな」

B「そそ。俺もそれは思った。でも5分で飯完食するって、結構元気だよな?」

A「そこで決めるのはどうかと思うけどな」

B「でも怪しくないか?お前ら怪しいことは報告しろっていったじゃん?
だから報告した」

語尾がちょっと得意げになっていたので俺とAはイラっとしたが、そこは置いておいて、
確かに少し不気味だなって思った。

「2階にはなにがあるんだろう?」

みんなそんな想いでいっぱいだったんだ。

次の日、いつもの仕事を早めに済ませ、俺とAはBのいる玄関先へ集合した。
そして女将さんが出てくるのを待った。

しばらくすると女将さんは盆に飯を載せて出てきて、2階に上がる階段のドアを開くと、
奥のほうに消えていった。ここで説明しておくと、2階へ続く階段は、玄関を出て外にある。
1階の室内から2階へ行く階段は俺達の見たところでは確認できなかった。

玄関を出て壁伝いに進み角を曲がると、そこの壁にドアがある。
そこを開けると階段がある。わかりずらかったらごめん。

とりあえずそこに消えてった女将さんは、Bの言ったとおり5分ほど経つと戻ってきて、
お盆の上の飯は空だった。そして俺達に気づかないまま、1階に入っていった。

B「な?早いだろ?」

俺「ああ、確かに早いな」

A「なにがあるんだ?上」

B「知らない。見に行く?」

A「ぶっちゃけ俺、今ちょーびびってるけど?」

B「俺もですけど?」

俺「とりあえず行ってみるべ」

そう言って3人で2階に続く階段のドアの前に行ったんだ。

A「鍵とか閉まってないの?」
というAの心配をよそに、俺がドアノブを回すと、すんなり開いた。

「カチャ」

ドアが数センチ開き、左端にいたBの位置からならかろうじて中が見えるようになったとき、
B「うっ」

Bが顔を歪めて手で鼻をつまんだ。

A「どした?」

B「なんか臭くない?」

俺とAにはなにもわからなかったんだが、Bは激しく匂いに反応していた。

A「おまえ、ふざけてるのか?」

Aはびびってるから、Bのその動作に腹が立ったらしく、でもBはすごい真剣に

B「いやマジで。匂わないの?ドアもっと開ければわかるよ」と言った。

俺は、意を決してドアを一気に開けた。
モアっと暖かい空気が中から溢れ、それと同時に埃が舞った。

俺「この埃の匂い?」

B「あれ?匂わなくなった」

A「こんな時にふざけんなよ。俺、なにかあったら絶対お前置いてくからな。今心に決めたわ」
とびびるAは悪態をつく。

B「いやごめんって。でも本当に匂ったんだよ。なんていうか・・生ゴミの匂いっぽくてさ」

A「もういいって。気のせいだろ」
そんな二人を横目に俺はあることに気づいた。

廊下が、すごい狭い。

人が一人通れるくらいだった。

そして電気らしきものが見当たらない。外の光でかろうじて階段の突き当たりが見える。
突き当たりには、もうひとつドアがあった。

俺「これ、上るとなるとひとりだな」

A「いやいやいや、上らないでしょ」

B「上らないの?」

A「上りたいならお前行けよ。俺は行かない」

B「おれも、むりだな」
AがBをどつく。

俺「結局行かねーのかよ。んじゃー、俺いってみる」

AB「本気?」

俺「俺こういうの、気になったら寝れないタイプ。寝れなくて真夜中一人で来ちゃうタイプ。
それ完全に死亡フラグだろ?だから、今行っとく。」

訳のわからない理由だったが、俺の好奇心を考慮すれば、今AとBがいるこのタイミングで
確認するほうがいいと思ったんだ。

でも、その好奇心に引けを取らずして恐怖心はあったわけで。

とりあえず俺一人行くことになったが、なにか非常事態が起きた場合は絶対に(俺を置いて)逃げたりせず、
真っ先に教えてくれっていう話になったんだ。

ただし、何事もないときは、急に大声を出したりするなと。
もしそうしてしまったときは、命の保障はできないとも伝えた。俺のね。

そんでソロソロと階段を上りだす俺。

階段の中は、外からの光が差し込み、薄暗い感じだった。
慎重に一段ずつ階段を上り始めたが、途中から、
「パキっ・・・パキっ」
と音がするようになった。

何事かと思い、怖くなって後ろを振り返り、二人を確認する。

二人は音に気づいていないのか、
じっとこちらを見て親指を立てる。
「異常なし」の意味を込めて。

俺は微かに頷き、再度2階に向き直る。
古い家によくある、床の鳴る現象だと思い込んだ。

下の入り口からの光があまり届かないところまで上ると、好奇心と恐怖心の均衡が怪しくなってきて、
今にも逃げ帰りたい気分になった。
暗闇で目を凝らすと、突き当たりのドアの前に何かが立っている・・かもしれないとか、
そういう「かもしれない思考」が本領を発揮しだした。

「パキパキパキっ・・」

この音も段々激しくなり、どうも自分が何かを踏んでいる感触があった。
虫か?と思った。背筋がゾクゾクした。
でも何かが動いている様子はなく、暗くて確認もできなかった。

何度振り返ったかわからないが、途中から下の二人の姿が逆光のせいか
薄暗い影に見えるようになった。ただ親指はしっかり立てていてくれた。

そしてとうとう突き当たりに差し掛かったとき、強烈な異臭が俺の鼻を突いた。
俺はBとまったく同じ反応をした。
俺「うっ」

異様に臭い。生ゴミと下水の匂いが入り混じったような感じだった。
(なんだ?なんだなんだなんだ?)
そう思って当たりを見回す。

その時、俺の目に飛び込んできたのは、突き当たり踊り場の角に
大量に積み重ねられた飯だった。
まさにそれが異臭の元となっていて、何故気づかなかったのかってくらいに
蝿が飛びかっていた。
そして俺は、半狂乱の中、もうひとつあることを発見してしまう。

2階の突き当たりのドアの淵には、ベニヤ板みたいなのが無数の釘で打ち付けられていて、
その上から大量のお札が貼られていたんだ。
さらに、打ち付けた釘に、なんか細長いロープが巻きつけられてて、くもの巣みたいになってた。

俺、正直お札を見たのは初めてだった。
だからあれがお札だったと言い切れる自信もないんだが、大量のステッカーでもないだろうと思うんだ。

明らかに、なにか閉じ込めてますっていう雰囲気全開だった。

俺はそこで初めて、自分のしたことは間違いだったんだと思った。

「帰ろう」
そう思って踵を返して行こうとしたとき、突然背後から

「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」
という音がしたんだ。

ドアの向こう側で、なにか引っかいているような音だった。

そしてその後に、
「ひゅー・・ひゅっひゅー」
不規則な呼吸音が聞こえてきた。

このときは本当に心臓が止まるかとおもった。

(そこに誰かいるの?誰?誰なの?)←俺の心の中

あの時の俺は、ホラー映画の脇役の演技を遥かに逸脱していたんじゃないかと思う。

そのまま後ろを見ずに行けばいいんだけど、あれって実際できないぞ。
そのまま行く勇気もなければ、振り返る勇気もないんだ。
そこに立ちすくむしかできかった。

眼球だけがキョロキョロ動いて、冷や汗で背中はビッショリだった。

その間も
「ガリガリガリガリガリガリ」
「ひゅー・・ひゅっひゅー」
って音は続き、緊張で硬くなった俺の脚をどうにか動かそうと必死になった。

すると背後から聞こえていた音が一瞬やんで、シンっとなったんだ。
ほんとに一瞬だった。瞬きする間もなかったくらい。

すぐに、「バンっ!」って聞こえて
「ガリガリガリガリガリガリ」って始まった。

信じられなかったんだけど、それはおれの頭の真上、天井裏聞こえてきたんだ。
さっきまでドアの向こう側で鳴っていたはずなのに、ソレが一瞬で頭上に移動したんだ。

足がブルブル震えだして、もうどうにもできないと思った。

心の中で、助けてって何度も叫んだ。

そんな中、本当にこれも一瞬なんだけど、視界の片隅に動くものが見えた。
あのときの俺は動くものすべてが恐怖で、見ようか見まいかかなり躊躇したんだが、
意を決して目をやると、それはAとBだった。
下から何か叫びながら手招きしている。

そこでやっとAとBの声が聞こえてきた。
A「おい!早く降りてこい!!」
B「大丈夫か?」

この瞬間一気に体が自由になり、我に返った俺は一目散に階段を駆け下りた。
あとで二人に聞いたんだが、俺はこの時目を瞑ったまま、
一段抜かししながらものすごい勢いで降りてきたらしい。

駆け下りた俺は、とにかく安全な場所に行きたくて、そのままAとBの横を通りすぎ
部屋に走っていったらしい。この辺はあまり記憶がない。
恐怖の記憶で埋め尽くされてるからかな。

部屋に戻ってしばらくするとAとBが戻ってきた。
A「おい、大丈夫か?」

B「なにがあったんだ?あそこになにかあったのか?」

答えられなかった。というか、耳にあの音たちが残っていて、思い出すのが怖かった。

するとAが慎重な面持ちで、こう聞いてきた。
A「お前、上で何食ってたんだ?」

質問の意味がわからず聞き返した。

するとAはとんでもないことを言い出した。
A「お前さ、上についてすぐしゃがみこんだろ?俺とBで何してんだろって目を凝らしてたんだけど、
なにかを必死に食ってたぞ。というか、口に詰め込んでた。」

B「うん・・。しかもさ、それ・・」

AとBは揃って俺の胸元を見つめる。

なにかと思って自分の胸元を見ると、大量の汚物がくっついていた。
そこから、食物の腐ったような匂いがぷんぷんして、俺は一目散にトイレに駆け込み、胃袋の中身を全部吐き出した。

なにが起きているのかわからなかった。
俺は上に行ってからの記憶はあるし、あの恐怖の体験も鮮明に覚えている。
ただの一度もしゃがみこんでいないし、ましてやあの腐った残飯を口に入れるはずがない。

それなのに、確かに俺の服には腐った残飯がこびりついていて、よく見れば手にも、
ソレを掴んだ形跡があった。
気が狂いそうになった。

俺を心配して見に来たAとBは、
A「何があったのか話してくれないか?ちょっとお前尋常じゃない。」
と言った。

俺は恐怖に負けそうになりながらも、一人で抱え込むよりはいくらかましだと思い、
さっき自分が階段の突き当たりで体験したことをひとつひとつ話した。

AとBは、何度も頷きながら真剣に話を聞いていた。

二人が見た俺の姿と、俺自身が体験した話が完全に食い違っていても、
最後までちゃんと聞いてくれたんだ。それだけで、安心感に包まれて泣きそうになった。
少しホッとしていると、足がヒリヒリすることに気づいた。
なんだ?と思って見てみると、細かい切り傷が足の裏や膝に大量にあった。

不思議におもって目を凝らすと、なにやら細かいプラスチックの破片ようなものが
所々に付着していることに気づいた。
赤いものと、ちょっと黒みのかかった白いものがあった。

俺がマジマジと見ていると、
B「何それ?」
といってBはその破片を手にとって眺めた。

途端、
「ひっ」といってそれを床に投げ出した。

その動作につられてAと俺も体がビクってなる。

A「なんなんだよ?」

B「それ、よく見てみろよ」

A「なんだよ?言えよ恐いから!」

B「つ、爪じゃないか?」

瞬間、三人共完全に固まった。
AB俺「・・・」

俺はそのとき、ものすごい恐怖のそばで、何故か冷静にさっきまでの音を思い返していた。
(ああ、あれ爪で引っかいてた音なんだ・・)

どうしてそう思ったかわからない。
だけど、思い返してみれば繋がらないこともないんだ。

階段を上るときに鳴っていた「パキパキ」っていう音も、何かを踏みつけていた感触も、床に大量に散らばった爪のせいだったんじゃないか?って。

そしてその爪は、壁の向こうから必死に引っかいている何かのものなんじゃないか?って。

きっと、膝をついて残飯を食ったとき、恐怖のせいで階段を無茶に駆け下りたとき、
床に散らばる爪の破片のせいでケガをしたんだろう。

でも、そんなことはもうどうでもいい。

確かなことは、ここにはもういられないってことだった。

俺はAとBに言った。
俺「このまま働けるはずがない」

A「わかってる」

B「俺もそう思ってた」

俺「明日、女将さんに言おう」

A「言っていくのか?」

俺「仕方ないよ。世話になったのは事実だし、謝らなきゃいけないことだ」

B「でも、今回のことで女将さん怪しさナンバーワンだよ?
もしあそこに行ったって言ったらどんな顔するのか俺見たくない」

俺「バカ。言うはずないだろ。普通にやめるんだよ。」

A「うん、そっちのほうがいいな」

そんなこんなで、俺たちはその晩のうちに荷物をまとめ、
男なのにむさくるしくて申し訳ないが、あまりの恐怖のため、
布団を2枚くっつけてそこに3人で無理やり寝た。
めざしのように寄り添って寝た。

誰一人、寝息を立てるやつはいなかったけど。

そうして明日を迎えることになるんだ。

次の日、誰もほとんど口をきかないまま朝を迎えた。
沈黙の中、急に携帯のアラームが鳴った。
いつも俺達が起きる時間だった。

Bの体がビクンってなって、相当怯えているのが伺えた。

Bは根がすごく優しいヤツだから、前の晩俺に言ったんだ。

B「ごめんな。俺なんかよりお前のほうが全然怖い思いしたよな。
それなのに俺がこんなんでごめん。助けに行かなくて本当ごめん。」

俺はそれだけで本当に嬉しくて目頭が熱くなった。

でもよくよく考えてみると、「俺なんかより怖い思い」ってなんだ?
実際に恐怖の体験をしたのは俺だし、AもBも下から眺めていただけだ。
もしかしてあれか?俺の階段を駆け下りる姿がマズかったか?

普通に考えて、俺の体験談が恐ろしかったってことか?

少し考えて、俺も大概、恐怖に呑まれて相手の言葉に過敏になりすぎてると思った。
こんな時だからこそ、早く帰ってみんなで残りの夏休みを楽しくゆっくり過ごそうと、
そればかりを考えるようにした。

だがその後のBの怯えようは半端なかった。

俺達がたてる音一つ一つに反応したり、俺の足の傷を食い入るようにじっと見つめたり、
明らかに様子がおかしかった。

Aも普段と違うBを見て、多少びびりながらも心配したんだろう、
A「おい、大丈夫か?寝てないから頭おかしくなってんのか?」
と問いかけながらBの肩を掴んだ。

するとBは急に、
B「うるさいっ!!」
と叫び、Aの腕をすごい勢いで振り払ったんだ。

Aと俺は一瞬沈黙した。

俺「おい、どうしたんだよ?」

Aは急のできごとに驚いて声を出せずにいた。

B「大丈夫かだって?大丈夫なわけねーだろ?
俺も○○(俺の名前)も死ぬような思いしてんだよ。
何にもわかってねーくせに心配したふりすんな!!」

Aを睨み付けながらそう叫んだ。

何を言ってるんだろうと思った。
Bの死ぬ思いってなんだ?俺の話を聞いて恐怖してたわけじゃないのか?

AとBは仲間内でも特に仲が良かったんだが、その関係もAがBをいじる感じで、
どんな悪ふざけにもBは怒らず調子を合わせていた。

だからBがAに声を荒げる場面なんか見たことなかったし、もちろん当の本人Aもそんな経験なかったんだと思う。
Aはこれも見たことないくらいにオロオロしていた。

俺は疑問に思ったことをBに問いかけた。

俺「死ぬ思いってなんだ?お前ずっと下にいたろ?」

B「いたよ。ずっと下から見てた」

そして少し黙ってから下を向いて言った。

B「今も見てる。」

俺「・・」

今も?
え、何を?

俺は訳がわからない。
全然わからないんだが、よくある話で、Bの気が狂ったんだと思った。
何かに取り憑かれたんだと。

そんな思いをよそに、Bは震える口調で、でもしっかりと喋りだした。

B「あの時、俺は下にいたけど、でもずっと見てたんだ」

俺「上っていく俺だよな?」

B「違うんだ・・いや、初めはそうだったんだけど。
お前が階段を上りきったくらいから、見え出したんだ」

俺「・・うん」

本当はこのとき、俺の心の中は聞きたくないという気持ちが大半を占めていた。
でもBは、もうこれ以上一人で抱えきれないという表情で、まるで前の日の自分を見ているようだったんだ。

あのとき、俺の話を最後までちゃんと聞いてくれたAとB、あれで自分がどれだけ救われたかを考えると、
俺には聞かなくちゃならない義務があるように思えた。

俺「何が、見えたんだ?」

B「・・・」

Bはまた少し黙りこみ、覚悟したように言った。

B「影・・だと思う」

俺「影?」

B「うん。初めはお前の影だと思ってたんだ。
けど、お前がしゃがみこんで残飯を食っている間にも、ずっと影は動いてたんだ。
お前の影が小さくなるのはちゃんと見えたし、自分らの影も足元にあった。」

B「それでそれ以外に動き回る影が・・」

B「3つ・・いや4つくらいあった。」

俺は、全身にぶわっと鳥肌が立つのを感じた。

どうかこれがBの冗談であってくれと思った。
しかし、今目の前にいるBはとてもじゃないが冗談を言っているように見えなかった。
むしろ、冗談という言葉を口に出したとたんに殴りかかってくるんじゃないかってくらいに真剣だった。

俺「あそこには、俺しかいなかった」

B「わかってる」

俺「そもそも、あのスペースに人が4,5人も入って動き回れるはずない」

あの階段は人が一人通れる位のスペースだったんだ。

B「あれは人じゃない。それ位わかるだろ」

俺「・・・」

B「それに、どう考えても人じゃ無理だ」

Bはポツリと言った。

俺「どういうことだ?」

B「全部、壁に張り付いてた」

俺「え?」

B「蜘蛛みたいに、全部壁の横とか上に張り付いてたんだ。
それで、もぞもぞ動いてて、それで、それで・・・」

自分の見た光景を思い出したのか、Bの呼吸が荒くなる。

俺「落ち着け!深呼吸しろ。な?大丈夫だみんないる」

Bはしばらく興奮状態だったが、落ち着きを取り戻してまた話しだした。

B「あれは人じゃない。いや、元から人じゃないんだけど、形も人じゃない。
いや、人の形はしてるんだけど、違うんだ」

Bが何を言いたいのかなんとなくわかった俺は、
俺「人間の形をしたなにかが、壁に張り付いてたってことか?」
と聞いた。

Bは黙って頷いた。

口から飛び出そうなくらいに心臓の鼓動が激しくなった。

とっさに、Bが見たのは影じゃないと思った。
影が横や上の天井を動き回るのは不自然だ。
仮にそれが影だったとしても、確実にそこに何かがいたから影ができたんだ。

それくらいバカの俺でもわかる。

ということは、俺は自分の周りで這い回る何かに気づかず、しかも腐った残飯を
モリモリと食べていたってことなのか?

あの音は・・?
あのガリガリと壁を引っかく音は、壁やドアの向こう側からじゃなくて、
俺のいる側のすぐそばで鳴っていたということか?
あの呼吸音も?

恐怖のあまり頭がクラクラした。

そんな俺の様子を知ってか知らずか、Bは傍に立っていたAに向き直り、
B「ごめん、さっきは取り乱して。悪かった」
と謝った。

A「いや、大丈夫・・こっちこそごめんな」
Aもすかさず謝った。

その後なんとなく気まずい雰囲気だったが、俺は平静を保つのに必死だった。
無意味に深呼吸を繰り返した。

そんな中Aが口を開いた。

A「お前さ、さっき今も見てるっていったけど」

BはAが言い終わらないうちに答えた。

B「ああ、ごめん。あれはちょっと、錯乱してたんだわ。ははっ
ごめん、今は大丈夫」

そういったBの笑顔は、完全に作り笑いだった。
明らかに無理した笑顔で、目はどこか違うところを見ているようだった。

関係ないんだが、このとき何故かものすごい印象的だったのは、Bの目の下がピクピクいってたことだ。
こんなん何人かに一人はよくあることだよな?
だけど無理して笑う人の目の下ピクピクは、結構くるものがあるぞ。

話を戻すと、Aと俺はそれ以上聞かなかった。
臆病者だと思われても仕方ない。だけど怖くて聞けなかったんだ。

ちょっと考えてみろ、ここまで話したBが敢えて何かを隠すんだぞ。
絶対無理だろ。聞いたら、俺の心臓砕け散るだろ。
それこそ俺が発狂するわ。

少しの沈黙のあと、広間のほうから美咲ちゃんが朝飯の時間だと俺達を呼んだ。
3人で話している間に結構な時間が過ぎていたらしい。

正直、食欲などあるはずもなく。
だが不審に思われるのは嫌だったし、行くしかないと思った。

俺はのっそりと立ち上がり、二人に言った。

俺「なるべく早いほうがいいよな。朝飯食い終わったら言おう」

A「そうだな」

B「俺、飯いいや。Aさ、ノートPCもってきてたよな?ちょっと、貸してくれないか?」

A「いいけど、朝飯食えよ」

B「ちょっと調べたいことがあるんだ。あんまり時間もないし、悪いけど二人でいってきて」

俺「了解。美咲ちゃんに頼んでおにぎり作ってもらってきてやるよ」

B「うん、ありがと」

A「パソコンは俺のカバンの中に入ってる。勝手に使っていいよ。ネットも繋がるから。」

そう言って俺達はそのまま広間に行った。

後から考えると、辞めるその日の朝飯食うってどうなの?
他人がやってたら絶対突っ込むくせして、俺らふっつーに食べたんだが。

広間に着くと、女将さんが俺らを見て、更には俺の足元をみて、満面の笑顔で聞いてきたんだ。

「おはよう、よく眠れた?」って。

そんな言葉、初日以来だったし、昨日のこともあったからすごい不気味だった。

びびった俺は直立不動になってしまったわけだが、Aが、
A「はい。すみません遅れて。」
と返事をしながら俺のケツをパンと叩いた。

体がスっと動いた。
いつも人一倍びびってたAに助け舟を出してもらうとは思わなかったから、正直驚いた。

そしてBが体調不良のためまだ部屋で寝ていることを伝え、美咲ちゃんにおにぎりを作ってもらえるよう頼んだ。

「あ、いいですよ。それよりBくん、今日は寝てたほうがいいんじゃ」

美咲ちゃんは心配そうにそう言った。

Aと俺は、得に何も言わず席についた。
”もう辞めるから大丈夫”とは言えないからな。

朝飯を食っている間、女将さんはずっとニコニコしながら俺を見てた。
箸が完全に止まってるんだ。「俺、ときどき飯」みたいな。
美咲ちゃんも旦那さんもその異様な光景に気づいたのか、チラチラ俺と女将さんを見てた。
Aは言うまでもなく、凝固。

凄まじく気分の悪くなった俺達は朝飯を早々に切り上げて、女将さん達に話をするため、部屋にBを呼びに行った。

部屋に戻る途中、Bの話し声が聞こえてきた。
どうやらどこかに電話をしているようだった。

俺達は電話中に声をかけるわけにもいかなかったので、部屋に入り座って電話が終わるのを待った。

B「はい、どうしても今日がいいんです。・・・・はい、ありがとうございます!
はい、はい、必ず伺いますのでよろしくお願いします。」
そう言って電話を切った。

どうやらBは、ここから帰ってすぐどこかへ行く予定を立てたらしい。
俺もAも別に詮索するつもりはなかったんで何も聞かず、すぐにBを連れて広間に向かった。

広間に戻ると美咲ちゃんが朝飯の片付けをしていた。
女将さんはいなかった。
俺はふと思った。

あそこに行ってるんじゃないか?って。
盆に飯のっけて、2階への階段に消えていったあの女将さんの後姿がフラッシュバックした。
きっとあの時持って行った飯は、あの残飯の上に積み重ねてあったんだろう。
そうして何日も何日も繰り返して、あの山ができたんだろうな。

(一体あれは何のためなんだ?)
俺の頭に疑問がよぎった。

けど、そんなこと考えるまでもないとすぐに思い直した。
俺は今日で辞めるんだ。ここともおさらばするんだ。すぐに忘れられる。
忘れなきゃいけない。心の中で自分に言い聞かせた。

Aが女将さんの居場所を美咲ちゃんに尋ねた。

「女将さんならきっと、お花に水やりですね。すぐ戻ってきますよ」

そう言って美咲ちゃんは、Bの方を見て、

「Bくん、すぐおにぎり作るからまっててね」
と笑顔で台所に引っ込んだ。

ああ、美咲ちゃん・・何もなければきっと俺は美咲ちゃんとひと夏のあばん(ry

俺達は女将さんが戻ってくるのを待った。

しばらくすると女将さんは戻ってきて、仕事もせずに広間に座り込む俺達を見て
「どうしたのあんたたち?」
とキョトンとした顔をしながら言った。

俺は覚悟を決めて切り出した。

俺「女将さん、お話があるんですけどちょっといいですか?」

女将さんは
「なんだい?深刻な顔して」
と俺達の前に座った。

俺「勝手を承知で言います。
俺達、今日でここを辞めさせてもらいたいんです」

AとBもすぐ後に、
AB「お願いします」
と言って頭を下げた。

女将さんは表情ひとつ変えずにしばらく黙っていた。
俺はそれがすごく不気味だった。
眉ひとつ動かさないんだ。まるで予想していたかのような表情で。

そして沈黙の後、
「そうかい。わかった、ほんとにもうしょうがない子たちだよ~。」
と言って笑った。

そして給料の話、引き上げる際の部屋の掃除などの話を一方的に喋り、
用意ができたら声をかけるようにと俺達に言ったんだ。

拍子抜けするくらいにすんなり話が通ったことに、三人とも安堵していた。
だけど、心のどこかでなんかおかしいと思う気持ちもあったはずだ。

話が決まったからには俺達は即行動した。
荷物は前の晩のうちにまとめてある。
あとは部屋の掃除をするだけで良かった。

バイトを始めてから、仕事が終われば近くの海で遊んだり、疲れてる日には戻ってすぐに爆睡だったんで、
部屋にいる時間はあまりなかったように思う。
だから男3人の部屋といえど、元からそんなに汚れているわけでもなかった。
そんなこんなで、一時間ほどの掃除をすれば部屋も大分綺麗になった。

準備ができたということで、俺達は広間に戻り、女将さんたちに挨拶をすることにした。

広間に着くと女将さんと旦那さん、そして悲しそうな顔をした美咲ちゃんが座っていた。

俺達は3人並んで正座し、
俺「短い間ですが、お世話になりました。
勝手言ってすみません」

俺AB「ありがとうございました」
と言って頭を下げた。

すると女将さんが腰を上げて、俺達に近寄りこう言った。
「こっちこそ、短い間だったけどありがとうね。
これ、少ないけど・・・」

そう言って茶封筒を3つ、そして小さな巾着袋を3つ手渡してきた。
茶封筒は思ったよりズッシリしてて、巾着袋はすごく軽かった。

そして後ろから美咲ちゃんが、
「元気でね」
といってちょっと泣きそうな顔しながら言うんだ。
そして、
「みんなの分も作ったから」って、
3人分のおにぎりを渡してくれた。

おいおい止めてくれ。泣いちゃうよ俺!
そう思ってあんまり美咲ちゃんの顔を見れなかった。

前日で死にそうな思いしたのにまさかのセンチって思うだろ?
だけど、実際すげー世話になった人との別れって、その時はそういうの無しになるものなんだわ。

挨拶も済んで、俺達は帰ることになった。

行きは近くのバス停までバスを使って来たんだが、帰りはタクシーにした。
旦那さんが車で駅まで送ってくれるって話も出たんだが、Bが断った。

そして美咲ちゃんに頼んでタクシーを呼んでもらった。

タクシーが到着すると、女将さんたちは車まで見送りに来てくれた。
周りから見ればなんとなく感動的な別れに見えただろうが、実際俺達は逃げ出す真っ最中だったんだよな。

タクシーに乗り込む前に、俺は振り返った。
かろうじて見えた2階への階段のドア。目を凝らすと、ほんの少し開いてるような気がして思わず顔を背けた。

そして3人とも乗り込み、行き先を告げた後すぐ車が動き出した。

旅館から少し離れると、急にBが運転手に行き先を変更するよう言ったんだ。
運転手になにかメモみたいなものを渡して、ここに行ってくれと。

運転手はメモを見て怪訝な顔をして聞いてきた。
「大丈夫?結構かかるよ?」

B「大丈夫です」

Bはそう答えると、後部座席でキョトンとしているAと俺に向かって
B「行かなきゃいけないとこがある。お前らも一緒に」
と言った。

俺とAは顔を見合わせた。考えてることは一緒だったと思う。

(どこへ行くんだ・・?)

だが、朝のBの様子を見た後だったんで、正直気が引けて何も聞けなかった。
またキレ出すんじゃないかとびびってたんだ。

しばらく走っていると運転手さんが聞いてきた。
「後ろ走ってる車、お客さんたちの知り合いじゃない?」

え?と思って振り返ると、軽トラックが一台後ろにぴったりくっついて走っていた。
そして中から手を振っていたのは、旦那さんだった。

俺達は何か忘れ物でもしたのかと思い、車を止めてもらえるよう頼んだ。

道の端に車が止まると、旦那さんもそのまますぐ後ろに軽トラを止めた。
そして出てくると俺達のところに来て、
「そのまま帰ったら駄目だ。」
と言った。

B「帰りませんよ。こんな状態で帰れるはずないですから」

Bと旦那さんはやけに話が通じあっていて、Aと俺は完全に置いてけぼりを食らった。

俺「え、どういうこと?」
なにがなにやらわからんかったので素直に質問した。

すると旦那さんは俺のほうを向き、まっすぐ目を見つめて言った。
旦「おめぇ、あそこ行ったな?」

心臓がドクンって鳴った。

(なんで知ってんの?)

この時は本気で怖かった。
霊的なものじゃなくて、なんていうか大変なことをしてしまったっていう思いがすごくて。

俺は、「はい」と答えるだけで精一杯だった。

すると旦那さんはため息をひとつ吐くと言った。
旦「このまま帰ったら完全に持ってかれちまう。
なぁんであんなとこ行ったんだかな。
まあ、元はと言えば俺がちゃんと言わんかったのが悪いんだけどよ。」

おい、持ってかれるってなんだ。勘弁してくれよ。
ここから帰ったら楽しい夏休みが待ってるはずだろ?

不安になってAを見た。Aは驚くような目で俺を見ていた。
さらに不安になってBを見た。
するとBは言うんだ。
B「大丈夫。これから御祓いに行こう。そのためにもう向こうに話してあるから」

信じられなかった。
憑かれていたってことか?
何だよ俺死ぬのか?この流れは死ぬんだよな?
なんであんなとこ行ったんだって?行くなと思うなら始めから言ってくれ。

あまりの恐怖で、自分の責任を誰か他の人に転嫁しようとしていた。

呆然としている俺を横目に、旦那さんは話を進めた。

旦「御祓いだって?」

B「はい」

旦「おめぇ、見えてんのか」

B「・・・」

A「おい、見えてるって・・」

B「ごめん。今はまだ聞かないでくれ」

俺は思わずBに掴みかかった。

俺「いい加減にしろよ。さっきから何なんだよ!」

旦那さんが割って入る。

旦「おいおい止めとけ。おめぇら、逆にBに感謝しなきゃならねぇぞ」

A「でも、言えないってことないんじゃないすか?」

旦「おめぇらはまだ見えてないんだ。一番危ないのはBなんだよ」

俺とAは揃ってBを見た。
Bは、困ったような顔をしてそこにいた。

俺「どうしてBなんですか?実際にあそこに行ったのは俺です」

旦「わかってるさ。でもおめぇは見えてないんだろ?」

俺「さっきから見えてるとか見えてないとか、なんなんですか?」

旦「知らん」

俺「はぁ!?」

トンチンカンなことを言う旦那さんに対して俺はイラっとした。

旦「真っ黒だってことだけだな、俺の知ってる情報は」

旦「だがなぁ・・」

そう言って旦那さんはBを見る。

旦「御祓いに行ったところで、なんもなりゃせんと思うぞ」

Bは、疑いの目を旦那さんに向けて聞いた。
B「どうしてですか?」

旦「前にもそういうことがあったからだな。
でも、詳しくは言えん。」

B「行ってみなくちゃわからないですよね?」

旦「それは、そうだな」

B「だったら」

旦「それで駄目だったら、どうするつもりなんだ?」

B「・・・」

旦「見えてからは、とんでもなく早いぞ」

早いという言葉が何のことを言っているのか俺にはさっぱりわからなかった。
だが、旦那さんがそういった後、Bは崩れ落ちるようにして泣き出したんだ。

声にならない泣き声だった。俺とAは、傍で立ち尽くすだけで何もできなかった。

俺達の異様な雰囲気を感じ取ったのか、タクシーの窓を開けて中から運転手が話しかけてきた。
「お客さんたち大丈夫ですか?」

俺達3人は何も答えられない。
Bに限っては道路に伏せて泣いてる始末だ。

すると旦那さんが運転手に向かってこう言った。
旦「あぁ、すまんね。呼び出しておいて申し訳ないんだが、こいつらはここで降ろしてもらえるか?」

運転手は、
「え?でも・・」
と言って俺達を交互に見た。

その場を無視して旦那さんはBに話しかける。

旦「俺がなんでおめぇらを追いかけてきたかわかるか?
事の発端を知る人がいる。その人のとこに連れてってやる。
もう話はしてある。すぐ来いとのことだ。」

旦「時間がねぇ。俺を信じろ」

肩を震わせ泣いていたBは、精一杯だったんだろうな、顔をしわくちゃにして声を詰まらせながら言った。
B「おねが・・っ・・します・・」

呼吸ができていなかった。
男泣きでもなんでもない、泣きじゃくる赤ん坊を見ているようだった。

昨日の今日だが、Bは一人で、何かものすごい大きなものを抱え込んでいたんだと思った。
あんなに泣いたBを見たのは、後にも先にもこの時だけだ。

Bのその声を聞いた俺は、運転手に言った。
俺「すいません。ここで降ります。いくらですか?」

その後、俺達は旦那さんの軽トラに乗り込んだ。
といっても、俺とAは後の荷台なわけで。
乗り心地は史上最悪だった。

旦那さんは俺達が荷台に乗っているにも関わらず、有り得んほどにスピードを出した。
Aから軽く女々しい悲鳴を聞いたが、スルーした。

どれくらい走ったのか分からない。
あんまり長くなかったんじゃないかな。
まあ正直、それどころじゃないほど尾てい骨が痛くて覚えていないだけなんだが。

着いた場所は、普通の一軒家だった。
横に小さな鳥居が立っていて石段が奥の方に続いていた。

俺達の通されたのはその家の方で、旦那さんは呼び鈴を鳴らして待っている間、俺達に「聞かれたことにだけ答えろ」と言った。

旦「おめぇら、口が悪いからな。変なこと言うんじゃねぇぞ」

俺は思った。
この人にだけは言われる筋合いがないと。

少し待つと、家から一人の女の人が出てきた。
年は20代くらいの普通の人なんだけど、額の真ん中にでっかいホクロがあったのがすごく印象的だった。

その女の人に案内されて通されたのは家の一角にある座敷だった。
そこには一人の坊さん(僧って言うのか?)と、一人のおっさん、一人のじいさんが座っていた。

俺達が部屋に入るなり、おっさんが「禍々しい」と呟いたのが聞こえた。

旦「座れ」

旦那さんの掛け声で俺達は、坊さんたちが並んで座っている丁度向かい側に3人並んで座った。
そして旦那さんがその隣に座った。

するとじいさんは口を開いた。
「○○(旅館の名前)の旦那、この子ら全部で3人かね?」

旦「えぇ、そうなんですわ。このBって奴は、もう見えてしまってるんですわ」

旦那さんがそう言った瞬間、おっさんとじいさんは顔を見合わせた。

すると坊さんが口を開いた。
坊「旦那さん、堂に行ったというのは彼ですか?」

旦「いえ。実際行ったのはこの○○(俺の名前)って奴で」

坊「ふむ」

旦「Bは下から覗いていただけらしいんです」

坊「そうですか」

そして少し黙ったあと坊さんはBに聞いたんだ。

坊「あなたは、この様な経験は初めてですか?」

Bが聞き返す。
B「この様な経験?」

坊「そうです。この様に、霊を見たりする体験です」

B「え・・ないです」

坊「そうですか。不思議なこともあるものです」

B「・・俺」

Bが何か喋ろうとしていた。
そこにいた全員がBを見た。

坊「はい」

B「俺、・・・死ぬんでしょうか?」

そう言ったBの腕は、正座した膝の上で突っ張っているのに、ガクガクと震えていた。

すると坊さんは静かに答えた。

坊「そうですね。このままいけば、確実に」

Bは言葉を失った様子だった。
震えが急に止まって、畳を一点食い入るように見つめだした。
それを見たAが口を挟んだ。

A「死ぬって」

坊「持って行かれるという意味です」

意味を説明されたところで俺達はわからない。
何に何を持って行かれるのか。

更に坊さんは続けた。

坊「話がわからないのは当然です。○○くんは、堂へ行った時に何か違和感を感じませんでしたか?」

坊さんが堂といっているのは、どうやらあの旅館の2階の場所らしかった。
それで俺は答えた。

俺「音が聞こえました。あと、変な呼吸音が。
2階のドアにはお札の様なものが沢山貼ってありました」

坊「そうですか。
気づいているかも知れませんがあそこには、人ではないものがおります」

あまり驚かなかった。事実、俺もそう思っていたからだ。

坊「恐らくあなたは、その人ではないものの存在を耳で感じた。
本来ならば人には感じられないものなのです。誰にも気づかれず、ひっそりとそこにいるものなのです」

そう言うと、坊さんはゆっくりと立ち上がった。

坊「Bくん、今は見えていますか?」

B「いえ。ただ音が、さっきから壁を引っかく音がすごくて」

坊「ここには入れないということです。幾重にも結界を張っておきました。
その結界を必死に破ろうとしているのですね」

坊「しかし、皆がいつまでもここに留まることは出来ないのです。
今からここを出て、おんどう(ごめん音でしかわからない)へ行きます。Bくん、ここから出ればまたあのものたちが現れます。」

坊「また苦しい思いをすると思います。
でも必ず助けますから、気をしっかり持って付いて来てくださいね」

Bはカクカクと首を縦に振っていた。

そうして、坊さんに連れられて俺達はその家を出てすぐ隣の鳥居をくぐり、石段を登った。
旦那さんは家を出るまで一緒だったが、おっさんたちと何やら話をした後、坊さんに頭を下げて行ってしまった。

知ってる人がいなくなって一気に心細くなった俺達は、3人で寄り添うように歩いた。
特にBは、目を左右に動かしながら背中を丸めて歩いていて、明らかに憔悴しきっていた。
だから俺達はできる限り、Bを真ん中にして二人で守るように歩いた。

石段を上り終わる頃、大きな寺が見えてきた。
だが坊さんはそこには向かわず、俺達を連れて寺を右に回り奥へと進んだ。
そこにはもう一つ鳥居があり、更に石段が続いていた。

鳥居をくぐる前に坊さんがBに聞いた。
坊「Bくん、今はどんな感じですか?」

B「二本足で立っています。ずっとこっちを見ながら、付いてきてます」

坊「そうか、もう立ちましたか。よっぽどBくんに見つけてもらえたのが嬉しかったんですね。
ではもう時間がない。急がなくてはなりませんね」

そして石段を上り終えると、さっきの寺とは比べ物にならない位小さな小屋がそこにあり、坊さんはその小屋の裏へ回ると、俺達を呼んだ。

俺達も裏へ回ると坊さんは、ここに一晩入り、憑きモノを祓うのだと言った。
そして、中には明りが一切ないこと、夜が明けるまでは言葉を発っしてはならないことを伝えてきた。

坊「もちろん、携帯電話も駄目です。明りを発するものは全て。食ったり寝たりすることもなりません」

どうしても用を足したくなった場合はこの袋を使用するようにと、変な布の袋を渡された。
俺は目を疑った。

(布って・・)

だが坊さん曰く、中から液体が漏れないようになっているらしい。
信じ難かったが、そこに食いついてもしょうがないので大人しくしといた。

その後俺達に、竹の筒みたいなものに入った水を一口ずつ飲ませ、自分も口に含むと俺達に吹きかけてきた。
そして小さな小屋の中に入るように言った。

俺達は順番に入ろうとしたんだが、Bが入る瞬間、口元を押さえて外に飛び出して吐いたんだ。
突然のことで驚いた俺達だったが、坊さんが慌てた様子で聞いてきた。

坊「あなたたち、堂に行ったのは今日ではないですよね?」

俺「え?昨日ですけど」

坊「おかしい、一時的ではあるが身を清めたはずなのに、おんどうに入れないとは」

言ってる意味がよく分からなかった。

すると坊さんはBのヒップバッグに目をつけ、
坊「こちらに滞在する間、誰かから何かを受け取りましたか?」
と聞いてきた。

俺は特に思い浮かばず、だがAが言ったんだ。
A「今日給料もらいましたけど」

当たり前すぎて忘れてた。
そういえば給料も貰いものだなって妙に感心したりして。

俺「あ、あと巾着袋も」

A「おにぎりも。もらい物に入るなら」

給料を貰った時に女将さんにもらった小さな袋を思い出した。
そして美咲ちゃんには朝、おにぎりを作って貰ったんだった。

坊さんはそれを聞くと、Bに話しかけた。
坊「Bくん、それのどれか一つを今、持っていますか?」

B「おにぎりはデカイ鞄の方に入れてありますけど、給料と袋は、今持ってます」

Bはそう言ってバッグからその二つを取り出した。

坊さんは、まず巾着袋を開けた。

すると一言、「これは・・」と言って俺達に見えるように袋の口を広げた。

中を覗き込んで俺達は息を呑んだ。

そこには、大量の爪の欠片が詰まっていたんだ。
俺の足に張り付いていたものと一緒だった。見覚えのある、赤と黒ずんだものだった。

Bは、その場ですぐまた吐いた。
俺もそれに釣られて吐いた。
周辺が汚物の匂いでいっぱいになり、坊さんも顔を歪めていた。

坊さんは、Bの持ち物を全て預かると言い、俺達2人も持ち物を全て出すように言った。

俺は、携帯と財布を坊さんに手渡し、旅行鞄の方に入っている巾着袋を処分してもらえるよう頼んだ。

坊さんは頷き、再度Bに竹筒の水を飲ませ、吹きかけた。

そして俺達3人がおんどうの中に入ると、
坊「この扉を開けてはなりません。皆、本堂のほうにおります。明日の朝まで、誰もここに来ることはありません。」

坊「そして、壁の向こうのものと会話をしてはなりません。このおんどうの中でも言葉を発してはなりません。居場所を教えてはなりません。」

坊「これらをくれぐれもお守りいただけますよう、お願いします」

そう言って俺達の顔を見渡した。
俺達は頷くしかなかった。
この時既に言葉を発してはならない気がして、怖くて何も言えなかったんだ。

坊さんは俺達の様子を確認すると、扉を閉め、そのまま何も言わず行ってしまった。

おんどうの中はひんやりしていた。
実際ここで飲まず食わずでやっていけるのかと不安だったが、これなら一晩くらいは持ちそうだと思った。

建物自体はかなり古く、壁には所々に隙間があった。といっても結構小さいものだけど。

まだ昼時ということもあり、外の光がその隙間から入り、AとBの顔もしっかり確認できた。
顔を見合わせても何も喋ることができないという状況は、生まれて初めてだった。

「大丈夫だ」という意味を込めて俺が頷くと、AもBも頷き返してくれた。

しばらくすると、顔を見合わせる回数も少なくなり、終いにはお互い別々の方向を向いていた。

喋りたくても喋れないもどかしさの中、後どれくらいの時間が残っているのか見当も付かない俺達は、ただただ呆然とその場にいることしかできなかったんだ。

途方もない時間が過ぎていると感じているのに、まだ外は明るかった。

するとAがゴソゴソと音を立て出した。
何をしているのかと思い、あまり大きな音を出す前に止めさせようと思ってAの方に向き直ると、Aは手に持った紙とペンを俺達に見せた。

こいつは、坊さんの言うことを聞かずに密かにペンを隠し持っていたのだ。
そして紙は、板ガムの包み紙だった。まあメモ用紙なんて持っているはずない俺達なので、きっとそれしか思い浮かばなかったんだろう。

(こいつ何やってんだよ・・)
一瞬そう思った俺だが、意思の疎通ができないこの状況で極限に心細くなっていた所為もあり、Aの取った行動に何も言う事が出来なかった。
むしろ、ひとつの光というか、上手く説明できないんだが、とにかくすごく安心したのを覚えてる。

Aはまず自分で紙に文字を書き、俺に渡してきた。

”みんな大丈夫か?”

俺はAからペンを受け取り、なるべく小さく、スペースを空けるようにして書き込んだ。

”俺は今のところ大丈夫、Bは?”

そしてBに紙とペンを一緒に手渡した。

”俺も今は平気。何も見えないし聞こえない。”

そしてAに紙とペンが戻った。

こんな感じで、俺達の筆談が始まったんだ。

A”ガム残り4枚。外紙と銀紙で8枚。小さく文字書こう”

俺”OK。夜になったらできなくなるから今のうちに喋る”

B”わかった”

A”今何時くらい?”

俺”わからん”

B”5時くらい?”

A”ここ来たの1時くらいだった”

俺”なら4時くらいか”

B”まだ3時間か”

A”長いな”

こんな感じで他愛もない話をして1枚目が終わった。

するとAが書いてきた。

A”○○文字でかい”

俺は謝る仕草を見せた。

するとAは俺にペンを渡してきたので、

俺”腹減った”

と書き込みBに渡した。

そしてBが何も書かずにAに紙を渡した。

するとAは

A”俺も”

と書いて俺に渡してきた。

あれだけ心細かったのに、いざ話すとなるとみんな何も出てこなかった。

俺は、日が沈む前に言っておかなければならないことを書いた。

俺”何があっても、最後までがんばろうな”

B”うん”

A”俺、叫んだらどうしよう”

俺”なにか口に突っ込んどけ”

B”突っ込むものなんてないよ”

A”服脱いでおくか”

俺”てか、何も起きない、そう信じよう”

Bは俺の書いた言葉にはノーコメントだった。

俺も書いたあと、自分で何を言ってるんだろうと思った。

坊さんは、何も起きないとは一言も言っていなかった。
むしろ、これから何が起こるのかを予想しているような口ぶりで俺達にいくつも忠告をしたんだ。

そう考えると俺達は、一刻も早く時間が過ぎてくれることを願っている一方で、本当の本当は、夜を迎えるのがすごく怖かったんだ。

夜だけじゃない、あの時ああしてる時間も、本当は怖くてしょうがなかった。
唯一の救いが、互いの存在を目視できるということだっただけで。

俺の一言で空気が一気に重くなった。

俺はこの空気をどうにかしようと、Bの持っていた紙とペンをもらい、

俺”何か喋れ時間もったいない”

と書いてAに渡した。他人任せもいいとこ。
Aは一瞬困惑したが、少し考えて書き出し、俺に渡してきた。

A”じゃあ、帰ったら何するか”

俺”いいね。俺はまずツタヤだな”

B”なんでツタヤ?”

俺”DVD返すの忘れてた”

A”どんだけ延泊!?”

まあ嘘だった。どうにかして気を紛らわせたかったからなんでもいいやって適当に書いた。
結果、雰囲気はほんの少しだが和み、AもBもそれぞれ帰ったら何をするかを書いた。

少しずつだが、ゆっくりと俺達は静かな時間を過ごした。
そして残りの紙も少なくなった頃、Bはある言葉を紙に書いた。

B”俺は坊さんに言われたことを必ず守る。死にたくない”

俺もAも、最後の言葉を見つめてた。
俺は「死にたくない」なんて言葉、生まれてこの方本気で言ったことなんかない。
きっとAもそうだろう。

死ぬなんて考えていなかったからだ。
死を間近に感じたことがないからだ。

それを、今目の前で心の底から言うヤツがいる。
その事実がすごく衝撃的だった。

俺はBの目をしっかりと見つめ、頷いた。

その後は特に何も話さなかったが、不思議と孤独感はなかった。

お互いの存在を感じながら、俺達は日が暮れるのを感じていた。

何もせずにいると蝉の鳴き声がうるさくて、でも徐々に耳が慣れて気にならなくなった。
でも、なんか違和感なんだ。よく耳を凝らすとなにか他の音が聞こえるんだ。

さらに耳を凝らすと、段々その音がクリアに聞こえるようになった。

俺は考えるより先に確信した。
あの呼吸音だって。

Bを見た。薄暗くて分かりづらかったが、Bに気づいている気配はなかった。

Bには聞こえないのか?
そういえばBって呼吸音について言ってたっけ?
もしかしてあれは聞いたことがないのか?
それとも単に気づいていないだけか?

頭の中で色々な考えが浮かんだ。
すると硬直する俺の様子に気づいたBが、周りをキョロキョロと見回し始めた。

この状況の中で、神経が過敏にならないはずがなかった。俺の異変にすぐ気づいたんだ。

すると、Bの視線が一点に止まった。俺の肩越しをまっすぐ見つめていた。
白目が一気にデカくなり、大きく見開いているのがわかった。

AもBの様子に気が付き、Bの見ている方を見ていたが何も見つけられないようだった。
俺は怖くて振り返れなかった。

それでも、あの呼吸音だけは耳に入ってくる。
ソレがすぐそこにいることがわかった。動かず、ただそこで「ひゅーっひゅーっ」といっていた。

しばらく硬直状態が続くと、今度は俺達のいるおんどうの周りを、ズリズリとなにか引きずるような音が聞こえ始めたんだ。

Aはこの音が聞こえたらしく、急に俺の腕を掴んできた。

その音は、おんどうの周りをぐるぐると回り、次第に呼吸音が「きゅっ・・・・きゅえっ・・」っていう何か得体の知れない音を挟むようになった。
俺には音だけしか聞こえないが、ソレがゆっくりとおんどうの周りを徘徊していることは分かった。

Aの腕から心臓の音が伝わってくるのを感じた。
Bを確認する余裕がなかったが、固まってたんだと思う。
全員微動だにしなかった。

俺は恐怖から逃れるために、耳を塞いで目を瞑っていた。
頼むから消えてくれと、心の中でずっと願っていた。

どれくらい時間が経ったかわからない。ほんの数分だったかも知れないし、そうでないかも知れない。
目を開けて周りを見回すと、おんどうの中は真っ暗で、ほぼ何も見えない状態だった。

そしてさっきまでのあの音は、消えていた。

恐怖の波が去ったのか、それともまだ周りにいるのか、判断がつかず動けなかった。

そして目の前に広がる深い闇が、また別の恐怖を連れて来たんだ。

目を凝らすが何も見えない。
「いるか?」「大丈夫か?」の掛け声さえ出せない。

ただAはずっと俺の腕を握ってたので、そこにいるのが分かった。

俺はこの時猛烈にBが心配になった。
Bは明らかに何かを見ていた。

暗がりの中で、Bを必死に探すが見えない。

俺は、Aに掴まれた腕を自分の左手に持ち直し、Aを連れてBのいた方へソロソロと歩き出した。
なるべく音を立てないように、そしてAを驚かせないように。

暗すぎて意思の疎通ができないんだ。
誰かがパニックになったら終わりだと思った。

どこにいるか全くわからないので、左手にAの腕を持ったまま、右手を手前に伸ばして左右にゆっくり振りながら進んだ。
すると指先が急に固いものに当たり、心臓がボンっと音を立てた。

手に触れたそれは、手触りから壁だということがわかった。

おかしい、Bのいた方角に歩いてきたのにBがいない。

俺は焦った。さらに壁を折り返してゆっくりと進んだ。だがまた壁に行き着いた。

途方に暮れて泣きそうになった。

「Bどこだ」の一言を何度も飲み込んだ。

どうしていいかわからなくなり、その場に立ち尽くしたままAの腕を強く握った。
すると、今度はAが俺の腕を掴み、ソロソロと歩き出したんだ。

まず、Aは壁際まで行くと、掴んだ俺の腕を壁に触らせた。
そしてそのままゆっくりと壁沿いを移動し、角に着いたら進路を変えてまた壁沿いに歩く。
そうやっていくうちに、前を歩くAがぱたりと止まった。そして、俺の腕をぐいっと引っ張ると、何か暖かいものに触れさせた。
それは、小刻みに震える人の感触だった。

Bを見つけたと思った。
でもすぐ後に、(これは本当にBなのか?)という疑問が芽生えた。
よく考えたらAもそうだ。ずっと近くにいたが、実際俺の腕を掴んでいるのはAなのか?

俺は暗闇のせいで、完全に疑心暗鬼に陥っていた。

俺が無言でいると、Aはまた俺の腕を掴み、ソロソロと歩き出した。

俺はゆっくりとついていった。
すると、ほんの僅かだが、視界に光が見えるようになった。

不思議に思っていると、部屋にある隙間から少しだけ月の明かりが入ってきているのが目に入った。
Aはそこへ俺達を連れて行こうとしているのだと思った。

何故気づかなかったのか、今思っても不思議なんだ。
暗闇に目が慣れるというのを聞いたことがあったけど、恐怖に呑まれてそれどころじゃなかった。
ほんとに真っ暗だったんだ。

とにかく、その時俺はその光を見て心の底から救われた気持ちになった。
そしてAに感謝した。

後から聞いたんだが、
A「俺は見えもしなかったし、聞こえもしなかった。なんか引きずってる音は聞こえたんだけどな。
でもそのおかげで、お前達よりは余裕があったのかも。」
と言っていた。
大した奴だって思った。

光の下に来ると、Aの反対側の手にBの腕が握られているのが見えた。
月明かりで見えたBの顔は、汗と涙でぐっしょり濡れていた。
何があったのか、何を見たのか、聞くまでもなかった。

夜は昼と違って、すごく静かで、遠くで鈴虫が鳴いていた。

俺達はしばらくそこでじっとしていた。
恥ずかしながら、3人で互いに手を取り合う格好で座った。ちょうど円陣を組む感じで。
あの状態が一番安心できる形だったんだと思う。

そして何より、例え僅かな光でも、相手の姿がそこに確認できるだけで別次元のように感じられたんだ。

しばらくそうしていると、とうとう予想していたことが起きた。

Aが催したのだ。
生理現象だから絶対に避けられないと思っていた。
Aは自分のズボンのポケットから坊さんに貰った布の袋をゴソゴソと取り出すと、立ち上がって俺達から少し離れた。

静寂の中、Aの出す音が響き渡る。
なんか、まぬけな音に若干気が抜けて、俺もBも顔を見合わせてニヤっとした。

その瞬間だった。

「Bくん」

AB俺(・・・)

一瞬にして体に緊張が走る。

するとまた聞こえた。
俺達がおんどうに入った扉のすぐ外側からだった。

「Bくん」

俺達は声の主が誰か一瞬で分かった。
今朝も聞いた、美咲ちゃんの声だった。

「Bくんおにぎり作ってきたよ」

こちらの様子を伺うように、少し間を空けながら喋りかけてくる。
抑揚が全くなく、機械のようなトーンだった。

Bの手にぐっと力が入るのが分かった。

「Bくん」

「・・・」

しばらくの沈黙の後、突然関を切ったように、

「Bくんおにぎり作ってきたよ」

「いらっしゃいませ~」

「おにぎり作ってきたよ」

「Bくん」

「いらっしゃいませ~」

「おにぎり作ってきたよ」

と同じ言葉を何度も何度も繰り返すようになった。

尋常じゃないと思った。

恐かった。美咲ちゃんの声なのに、すげー恐かった。

坊さんはおんどうには誰も来ないと俺達に言っていた。
そしてこの無機質な喋り方だ。
扉の外にいるのは、絶対に美咲ちゃんじゃないと思った。

気づくとAが俺達の側に戻り、俺とBの腕を掴んだ。
力が入ってたから、こいつにも聞こえてるんだと思った。

俺達は3人で、おんどうの扉の方を見つめたまま動けなかった。
その間もその声は繰り返し続く。

「いらっしゃいませ~」
「Bくん」
「おにぎり作ってきたよ」

そしてとうとう、扉がガタガタと音を出して揺れ始めた。

おい、ちょ、待て。

扉の向こうのヤツは扉をこじ開けて入ってくるつもりなんだと思った。
俺は扉が開いたらどうするかを咄嗟に考えた。

(全速力で逃げる、坊さんたちは本堂にいるって言ってたからそこまで逃げて・・おい本堂ってどこだ)
とか。もうここからどうやって逃げるかしか考えてなかった。

やがてそいつは、ガンガンと扉に体当たりするような音を立てだした。
無機質な声で喋りながら。

そしてそのまま少しずつ、おんどうの壁に沿って左に移動し始めたんだ。
一定時間そうした後にまた左に移動する。その繰り返しだった。

(何してるんだ・・?)

不思議に思っていると、俺はあることに気づいた。
俺達のいる壁際には隙間が開いている。
そしてそいつは今そこにゆっくりと向かっている。

(もし隙間から中が見えたら?)
(もし中からアイツの姿が見えたら?)

そう考えると居ても立ってもいられなくなり、俺は2人を連れて急いで部屋の中央に移動した。

移動している。ゆっくりと、でも確実に。

心臓の音さえ止まれと思った。
ヤツに気づかれたくない。
いや、ここにいることはもう気づかれているのかもしれないけど。

恐怖で歯がガチガチといい始めた俺は、自分の指を思いっきり噛んだ。

そして俺は、隙間のある場所に差し掛かったそいつを見た。
見えたんだ。月の光に照らされたそいつの顔を、今まで音でしか感じられなかったそいつの姿を。

真っ黒い顔に、細長い白目だけが妙に浮き上がっていた。

そして体当たりだと思っていたあの音は、そいつが頭を壁に打ち付けている音だと知った。
そいつの顔が、一瞬壁の隙間から消える。
外でのけぞっているんだろう。
そしてその後すぐ、ものすごい勢いで壁にぶち当たるんだ。

壁にぶち当たる瞬間も、白目をむき出しにしてるそいつから、俺は目が離せなくなった。
金縛りとは違うんだ、体ブルブル動いてたし。

ただ見たことのない光景に、目を奪われていただけなのかも知れないな。

あの勢いで頭を壁にぶつけながら、それでも淡々と喋り続けるそいつは、完全に生きた人間とはかけ離れていた。

結局、そいつは俺達が見えていなかったのか、隙間の場所でしばらく頭を打ち付けた後、さらにまた左へ左へと移動していった。

俺の頭の中で、残像が音とシンクロし、そいつが外で頭を打ち付けている姿が鮮明に想像できた。

正直なところ、そいつがどれくらいそこに居たのかを俺は全く覚えていない。
残像と現実の区別がつけられない状態だったんだ。

後から聞いた話だと、そいつがいなくなって静まりかえった後、3人ともずっと黙っていたらしい。

Aは警戒したから。
Bは恐怖のため動けなかったから。
そして俺は残像の中で延長戦が繰り広げられていたから。

そんでAが俺を光の場所へ連れていこうと腕を掴んだ時、体の硬直が半端なくて一瞬死んだと思ったらしい。
本気で死後硬直だと思ったんだって。

BはBで、恐怖で歯を食いしばりすぎて、歯茎から血を流してた。

Aだけは、やっぱり姿を見ていなかった。

あと、そいつはそこから遠ざかって行く時カラスのように「ア゛ーっア゛ー」と奇声を発していたらしい。
その声は、Aだけが聞いていたんだけど。

そいつの2度の襲来によって、その後の俺達の緊張の糸が緩むことはなかった。

ただ、神経を張り巡らせている分体がついていかなかった。
みんな首を項垂れて、目を合わすことは一切無かった。
Bは、催したものをそのまま垂れ流していたが、Aと俺はそれを何とも思わなかった。

あんなに夜が長いと思ったのは生まれて初めてだ。
憔悴しきった顔を見たのも、見せたのも、もちろん人でないものの姿を見たのも。
何もかも鮮明に覚えていて、今も忘れられない。

おんどうの隙間から光が差し込んできて、夜が明けたと分かっても、俺達は顔を上げられずそこに座っていた。
雀の鳴き声も、遠くから聞こえる民家の生活音も、すべてが俺の心臓に突き刺さる。
ここから出て生きていけるのか、本気でそう思ったくらいだ。

本格的に太陽の光が中に入りこんできた頃、遠くからこっちに近づいてくる足音が聞こえた。
俺達は完全に身構え体制に入った。
足音はすぐ近くまで来ると、おんどうの裏へ回り入り口の前で止まった。

息を呑んでいると、ガタガタっと音がし、「キィーッ」と音を立てて扉が開いた。

そこに立っていたのは、坊さんだった。

坊さんは俺達の姿を見つけると、一瞬泣きそうな顔をして、
坊「よく、頑張ってくれました」
と言った。

あの時の坊さんの目は、俺一生忘れないと思う。
本当に本当に優しい目だった。

俺は、不覚にも腰を抜かしていた。
そして、いい年こいてわんわん泣いた。

坊さんは、俺達の汗と尿まみれのおんどうの中に迷わず入って来て、そして俺達の肩を一人一人抱いた。
その時坊さんの僧衣?から、なんか懐かしい線香の香りがして、
(ああ、俺達、生きてる)
って心の底から思った。
そこでまた俺子供のように泣いた。

しばらくしても立ち上がれない俺を見て、坊さんはおっさんを呼んできてくれた。
そして2人に肩を抱えられながら、前日に居た一軒家に向かった。

途中、行く時に見た大きな寺の横を通ったんだが、その時俺達3人は叫び声を聞いた。
低く、そして急に高くなって叫ぶ人の声だった。

家の玄関に着くと耳元でAが囁いた。
A「さっきのあれ、女将さんの声じゃね?」

まさかと思ったが、確かに女将さんの声に聞こえなくもなかった。
だが俺はそれどころじゃないほど疲れていたわけで。

早く家に上げて欲しかったんだが、玄関に出てきた女の人がすげー不快そうに俺達を見下しながら、
「すぐお風呂入って」
って言うんだわ。

まーしょうがない。だって俺達有り得んくらい臭かったしね。

そして俺達は、3人仲良く風呂に入った。
まあ怖かった。
いきなり一人になる勇気はさすがになかった。

風呂を上がると見覚えのある座敷に通され、そこに3枚の布団が敷いてあった。

「まず寝ろ」ということらしかった。

ここは安全だという気持ちが自分の中にあったし、極限に疲れていたせいもあった。
というか、理屈よりまず先に体が動いて、俺達は布団に顔を埋めてそのまま泥のように眠った。

俺は眠りに入る中で、まったくもってどうでもいいことを思った。
(起きたらあいつらに、俺達が帰るって電話しなきゃな。)

旅行の準備満タンでスタンバイする友達2人は、俺達が今こうして死にそうな思いをしていたことを知らない。
もちろん、旅行計画がオジャンになることも。

そういえば、おんどうから出る時俺はBに聞いたんだ。
俺「B、もう、見えないよな?」

するとBは、確かな口調で答えた。
B「ああ、見えない。助かったんだ。ありがとう」

おれはその最後の一言を聞いて、Bが小便を垂らしたことは内緒にしておいてやろうと思った。

俺達は助かったんだ。その事実だけで、十分だった。

ーーー

その後目を覚ました俺達は、事の真相を坊さんに聞かされることになる。
そして、人間の本当の怖さと、信念の強さがもたらした怪奇的な現実を知るんだ。

Bの見たもの、俺の見たもの、Aの聞いたもの。
それを全て知って、俺達は再び逃げ出す決心をする。

今まで読んでくれた人たち、本当にありがとう。
自分でもこんな長文になるとは思ってもなかった。

沢山の期待がある分、それに沿えない結果だったかもしれないけど、
話を湾曲させたくなかったからそのまま書かせてもらった。

長すぎるのもなんなんで、一応ここで完結にしておく。

これから先は、事の真相を書くんで、本当に気になる人だけ読んでくれ。

あの後、俺達は死んだように眠り、坊さんの声で目を覚ました。

坊「皆さん、起きれますか?」

特別寝起きが悪いAをいつものように叩き起こし、俺達は坊さんの前に3人正座した。

坊「皆さん、昨日は本当によく頑張ってくれました。
無事、憑き祓いを終えることができました」

そう言って坊さんは優しく笑った。

俺達は、その言葉に何と言っていいか分からず、曖昧な笑顔を坊さんに向けた。
聞きたいことは山ほどあったのに、何も言い出せなかった。

すると坊さんは俺達の心中を察したのか、
坊「あなたたちには、全てお話しなくてはなりませんね。お見せしたい物があります」
と言って立ち上がった。

坊さんは家を出ると、俺達を連れて寺の方に向かった。

石段を上る途中、Bはキョロキョロと辺りを警戒する仕草を見せた。
それにつられて俺も、昨日見たアイツの姿を思い出して同じ行動を取った。

それに気づいた坊さんは、俺達に聞いた。
坊「もう大丈夫のはずです。どうですか?」

B「大丈夫・・何も見えません」

俺「俺も平気です」

その返事を聞くと坊さんはにっこりと笑った。

大きな寺に着くと、ここが本堂だと言われた。
坊さんの後ろに続いて寺の横にある勝手口から中に入り、さっきまで居た座敷とさほど変わらない部屋に通された。

坊さんは俺達にここで少し待つように言うと、部屋を出て行った。
Bは落ち着かないのか貧乏揺すりを始めた。

暫くすると、坊さんは小さな木箱を手に戻って来た。

そして俺達の対面に腰を下ろすと、
坊「今回の事の発端をお見せしますね」
と言って箱を開けた。

3人で首を伸ばして箱の中を覗き込んだ。
そこには、キクラゲがカサカサに乾燥したような、黒く小さい物体が綿にくるまれていた。

AB俺(何だこれ?)

よく見てみるが分からない。

だがなんとなく、どっかで見たことのある物だと思った。
俺は暫く考え、咄嗟に思い出した。

昔、俺がまだ小さい頃、母親がタンスの引き出しから大事そうに木の箱を持ってきたことがあった。
そして箱の中身を俺に見せるんだ。すげー嬉しそうに。
箱の中には綿にくるまれた黒くて小さな物体があって、俺はそれが何か分からないから母親に尋ねたんだ。

そしたら母親は言ったんだ。
「これはねぇ、臍(へそ)の緒って言うんだよ。お母さんと、○○が繋がってた証」

俺は子供心に(なんでこんなの大事そうにしてるんだろ?)って思った。

目の前にあるその物体は、あの時に見た臍の緒に似ているんだと思った。

A「これ何ですか?」

坊「これは、臍の緒ですよ」

というか似てるもなにも臍の緒だった。

A「俺初めて見たかも」

B「おれ見たことある」

俺「俺も」

坊「みなさん親御さんに見せてもらったのでしょう。
こういうものは、大切に取っておく方が多いですから」

坊「この臍の緒も、それはそれは大切に保管されていたものなのです」

俺たちは黙って坊さんの話を聞いていた。

坊「母親の胎内では、親と子は臍の緒で繋がっております。
今ではその絆や出産の記念にと、それを大切にする方が多いですが、臍の緒には色々な言い伝えがあり、昔はそれを信じる者も多かったのです」

B「言い伝え?」

坊「そうです。昔の人はそういう言い伝えを非常に大切にしておりました。今となっては迷信として語られるだけですが」

そう前置きをして坊さんは臍の緒に関する言い伝えを教えてくれた。

主に”子を守る”という意味を持っているが、解釈は様々。
”子が九死に一生の大病を患った際に煎じて飲ませると命が助かる”とか”子に持たせるとその子を命の危険から守る”というのがあって、親が子供を想う気持ちが込められているところでは共通しているらしい。

俺たちはその話を聞いて、「へぇ~」なんて間抜けな返事をしていた。

坊さんは一息入れると、微かに口元を上げて言った。

坊「ひとつ、この土地の昔話をしてもよろしいですか?
今回の事に関わるお話として聞いいただきたいのです」

俺達は坊さんに頷いた。

ここから、坊さんの話が始まる。
結構長くて、正確には覚えてない、所々抜け落ち部分があるかも。

坊「この土地に住む者も、臍の緒に纏わる言い伝えを深く信じておりました。
土地柄、ここでは昔から漁を生業として生活する者が多くおりました。
漁師の家に子が生まれると、その子は物心がつく頃から親と共に海に出るようになります。
ここでは、それがごく普通のしきたりだったようです」

坊「漁は危険との隣り合わせであり、我が子の帰りを待つ母親の気持ちは、私には察するに余りありますが、それは深く辛いものだったのでしょう。
母親達はいつしか、我が子に御守りとして臍の緒を持たせるようになります」

坊「海での危険から命を守ってくれるように、そして行方のわからなくなったわが子が、自分の元へと帰ってこれるようにと」

俺「帰ってくる?」

俺は思わず口を挟んだ。

坊「そうです。まだ体の小さな子は波にさらわれることも多かったと聞きます。
行方の分からなくなった子は、何日もすると死亡したことと見なされます。
しかし、突然我が子を失った母親は、その現実を受け入れることができず、何日も何日もその帰りを待ち続けるのだそうです」

坊「そうしていつからか、子に持たせる臍の緒には、”生前に自分と子が繋がっていたように、子がどこにいようとも自分の元へ帰ってこれるように”と、命綱の役割としての意味を孕むようになったのだと言います」

皮肉な話だと思った。
本来海の危険から身を守る御守りとしての役割を成すものが、いざ危険が起きたときの命綱としての意味も持ってる。

母親はどんな気持ちで子どもを送り出してたんだろうな。

坊「実際、臍の緒を持たせていた子が行方不明になり無事に帰ってくることはなかったそうです」

坊「しかしある日、”子供が帰ってきた”と涙を流して喜ぶ1人の母親が現れます。これを聞いた周囲の者はその話を信用せず、とうとう気が狂ってしまったかと哀れみさえ抱いたそうです。
何故なら、その母親が海で子を失ったのは3年も前のことだったからです」

B「どこかに流れついて今まで生きてたとかじゃないんですか?」

坊「そうですね。始めはそう思った者もいたようです。そして母親に子供の姿を見せてほしいと言い出した者もいたそうなのです」

B「それで?」

坊「母親はその者に言ったそうです。”もう少ししたら見せられるから待っていてくれ”と」

どういう意味だ?
帰って来たら見せられるはずじゃないのか?

俺はこの時、理由もなく鳥肌が立った。

坊「もちろんその話を聞いて村の者は不振に思ったそうですが、子を亡くしてからずっと伏せっていた母親を見てきた手前、強く言うことができずそのまま引き下がるしかできなかったそうです」

坊「しかし次の日、同じ事を言って喜ぶ別の母親が現れるのです。そしてその母親も、子の姿を見せることはまだできないという旨の話をする。
村の者達は困惑し始めます。」

坊「前日の母親は既に夫が他界し、本当のところを確かめる術が無かったのですが、この別の母親には夫がおりました。
そこで村の者達は、この夫に真相を確かめるべく話を聞くことになったそうです」

坊「するとその夫は言ったそうです。”そんな話は知らない”と。母親の喜びとは反対に、父親はその事実を全く知らなかったのです。
村人達が更に追求しようとすると、”人の家のことに首を突っ込むな”とついには怒りだしてしまったそうです」

まあ、そうだよな。
何にせよ周りの人に家の中のことをごちゃごちゃ聞かれたらいい気はしないだろうな、なんて思ったりもした。

坊 「その後何日かするとある村の者が、最初に子が戻ってきたと言い出した母親が、昨晩子共を連れて海辺を歩く姿を見たと言い出します。暗くてあまり良く見え なかったが、手を繋ぎ隣にいる子供に話しかけるその姿は、本当に幸せそうだったと。この話を聞いた村の者達は皆、これまでの非を詫びようと、そして子が 戻ってきたことを心から祝福しようと、母親の家に訪ねに行くことにしたそうです」

坊「家に着くと、中から満面の笑顔で母親が顔を出したそうです。村の者達はその日来た理由を告げ、何人かは頭を下げたそうです。
すると母親は、”何も気にしていません。この子が戻って来た、それだけで幸せです”と言いながら、扉に隠れてしまっていた我が子の手を引き寄せ、皆の前に見せたそうです」

坊「その瞬間、村の者達はその場で凍りついたそうです」

AB俺「・・・」

坊 「その子の肌は、全身が青紫色だったそうです。そして体はあり得ない程に膨らみ、腫れ上がった瞼の隙間から白目が覗き、辛うじて見える黒目は左右別々の方 向を向いていたそうです。そして口から何か泡のようなものを吹きながら母親の話しかける声に寄生を発していたそうです。それはまるでカラスの鳴き声のよう だったと聞きます。
村の者達は、子供の奇声に優しく笑いかけ、髪の抜け落ちた頭を愛おしそうに撫でる母親の姿を見て、恐怖で皆その場から逃げ出してしまったのだそうです」

坊 「散り散りに逃げた村の者達はその晩、村の長の家に集まり出します。何か得体の知れないものを見た恐怖は誰一人収まらず、それを聞いた村の長は自分の手に は負えないと判断し、皆を連れてある住職の元へ行くことにします。その住職というのが、私のご先祖に当たる人物らしいのですが・・」

坊「相談を受けた住職は、事の重大さを悟りすぐさま母親の元に向かいます。そして母親の横に連れられた子を見るや、母親を家から引きずり出し寺へと連れて帰ったそうです。その間も、その子は住職と母親の後をずっと付いてきて奇声を発していたのだとか」

坊「寺に着くとまず結界を強く張った一室に母親を入れ、話を聞こうとします。しかし、一瞬でも子と離れた母親は、その不安からかまともに話をできる状態ではなかったと聞きます。ついには子供を返せと、住職に向かってものすごい剣幕で怒鳴り散らしたのだそうです」

A「それでどうなったんですか?」

坊「子を想う母は強い。住職が本気で押さえ込もうとしたその力を跳ね飛ばし、そのまま寺を飛び出してしまったのだそうです」

坊さんは少し情けなそうな顔をしてそう言った。

坊「その後、村の者と従者を何人か連れて母親の家に行きましたが、そこに母と子の姿はなかったそうです。
そして家の中には、どこのものかわからない札が至る所に貼り付けられ、部屋の片隅には腐った残飯が盛られ異臭が立ち込めていのだとか」

この時俺は思った。あの旅館の2階で見たものと同じだと。

坊「そこに居た皆は同じことを思いました。母親は子を失った悲しみから、ここで何かしらの儀を行っていたのだと。
そして信じ難いことだが、その産物としてあのようなモノが生まれたのだと。その想いを悟った村の者達は、母親の行方を村一丸になって捜索します」

坊 「住職はすぐさま従者を連れ、もう一人の母親の家に向かいますが、こちらも時既に遅しの状態だったそうです。得体の知れないモノに語りかけ、子の名前を呼 ぶ母親に恐怖する父親。その光景を見た住職は、経を唱えながらそのモノに近づこうとしますが、子を守る母親は住職に白目を向き、奇声を発しながら威嚇して きたのだそうです」

現実味のない話だったのに、なぜかすごく汗ばんだ。

坊「村の者は恐れ、一歩も近寄れなかったと言いま す。しかし住職とその従者は臆することなくその母親とそのモノに近づき、興奮する母親を取り押さえ寺へ連れ帰ります。暴れる母親を抱えながら、背後から付 いて来るモノに経を唱え、道に塩を盛りながら少しずつ進んだのだそうです」

坊「寺に着くと住職は母親をおんどうへ連れて行き、体を縛りその中に閉じ込めたのだそうです」

A「そんなことを・・」

Aが哀れみの声を出した。

坊「仕方がなかったのです。親と子を離すのが先決だった、そうしなければ何もできなかったのでしょう」

坊さんがしたことではないが、Aは坊さんから顔を背けた。

少しの沈黙の後、坊さんは続けた。

坊 「母親の体には自害を防ぐための処置が施されたようですがその詳細は分かりません。その後、おんどうの周りに注連縄を巻きつけ、住職達はその周りを取り囲 むようにして座り経を唱え始めたそうです。中から母親の呻き声が聞こえましたが、その声が子に気づかれぬよう、全員で大声を張り上げながら経を唱えたそう です」

坊「住職達が必死に経を唱える中、いよいよ子の姿が現れます。子は親を探し、おんどうの周りをぐるぐると回り始めます。何を以って親の場所を捜すのか、果たして経が役目を成すのかもわからない状態で、とにかく住職達は必死に経を唱えたのです」

そこで坊さんは一息ついた。

B「それで、どうなったんですか?」
Bの声は恐る恐るといった感じだった。

坊 「おんどうの周りを回っていたそのモノは、次第に歩くことを困難とし、四足歩行を始めたそうです。その後、四肢の関節を大きく曲げ、蜘蛛のように地を這い 回ったそうです。それはまるで、人間の退化を見ているようだったと。その後、なにやら呻き声を上げたかと思うとそのモノの四肢は失われ、芋虫のような形態 でそこに転がっていたのだとか」

坊「そしてそのモノは夜が明けるにつれて小さくすぼみ、最終的に残ったのが、臍の緒だったのです」

俺は、坊さんの話に聞き入っていた。
まるで自分達の話に毛が生えて、昔話として語られているような感覚だった。

するとAが聞いたんだ。

A「え、もしかしてその臍の緒って・・」

すると坊さんは静かに答えた。

坊「今朝、おんどう奥の岩の上に転がっていたものです」

B「マジかよ・・」

Bは呆然として呟いた。

俺「なんで?なんで俺達なんですか?」

坊「詳しくはわかりません。この寺には、代々の住職達の手記が残されていますが、母親でない者にこのような現象が起きた事例は見当たりませんでした」

坊「何より、肝心の母親の行った儀式について。これがまだ謎に包まれたままなのです」

B「母親に聞かなかったんですか?」

坊「聞かなかったのではなく、聞けなかったのです」

ポカンとしていると坊さんはまた話し始めた。

坊 「住職達がおんどうを開け中を確認すると、疲れ果ててぐったりした母親がいたそうです。子を求めて一晩中叫んでいたのでしょう。すぐさま母親を外に運びだ し手当てをしましたが、目を覚ました時には、母親は完全に正気を失っておりました。二度も子を失った悲しみからなのか、はたまた何か禍々しいモノの所為な のか、それも分かりかねますが」

坊「そして村の者が捜索していたもう一人の母親ですが、一晩経を読み上げ疲れ果てた住職達の元に、発見の 知らせが届いたそうです。近海の岸辺に遺体となって打ち上げられていたと。母親は体中を何かに食い破られており、それでいて顔はとても幸せそうだったとあ ります。何が起きたのかはわかりませんが、住職の手記にはこうありました。”子に食われる母親の最後は、完全な笑顔だった”と。」

信じられないような話なんだが、俺達は坊さんの話す言葉一つ一つをそのまま飲み込んだ。

坊「遺体となって見つかった母親の家は、村の者達による話し合いで取り壊されることとなり、その際に家の中から母親の書いたものらしいメモが見つかったそうです」

そう言って坊さんはそのメモの内容を俺達に説明してくれた。
簡単に言うと、儀式を始めてからの我が子を記録した成長記録のようなものだったそうだ。
どんな風に書かれていたのかは憶測でしかないんだが、内容は覚えているので以下に書く。わかりづらいかも。

○月?日 堂の作成を開始する
×月?日 変化なし

・・・

△月?日 △△(子の名前)が帰ってくる
△月?日 移動が困難な状態
△月?日 手足が生える
△月?日 はいはいを始める
△月?日 四つ足で動き回る
△月?日 言葉を発する
△月?日 立つ

この成長記録に、母親の心情がビッシリと書き連ねてあったらしい。

ちなみに、もう一人の母親は、屋根裏に堂を作っていたらしく、父親はその存在に全く気づいていなかったのだそうだ。

坊「私もすべてを理解しているとは言えませんが、この母親の成長記録と住職の手記を見比べると、そのモノは自分の成長した過程を遡るようにして退化していったと考えられませんか?」

確かにその通りだと思った。
そして坊さんは、それ以上の言及を避けるように話を続けた。

坊 「これ以降手記には、非常に稀ですが同じような事象の記述が見られます。だがその全てに、母親達がいつどのようにしてこの儀を知るのかが明記されていない のです。それは全ての母親が、命を落とす若しくは、話すこともままならない状態になってしまったことを意味しているのです」

坊さんは早期に発見できないことを悔やんでいると言った。

坊「今回の現象は初めてのことで、私自身もとても戸惑っているのです。何故母親ではないあなたがそのモノを見つけてしまったのか。子の成長は母親にしか分からず、共に生活する者にもそれを確認することはできないはずなのです」

そんなデタラメな話有りなのか?と思った。
そしてBが、話の核心を知ろうと、恐る恐る質問した。

B「あの、母親って、・・・もしかして女将さんなんですか?」

坊さんは少し黙り、答えた。

坊「その通りです」

坊「真樹子さんは、この村出身の者ではありません。○○さん(旦那さんの名前)に嫁ぎこの村にやってきました。息子を一人儲け、非常に仲の良い家族でした」

そう言って話してくれた坊さんの話の内容は、大方予想が付いていたものだった。

女将さんの一人息子は、数年前のある日海で行方不明になったそうだ。
大規模な捜索もされたが、結局行方は分からなかったらしい。

悲しみに暮れた女将さんは、周囲から慰めを受け、少しずつだが元気を取り戻していったそうだ。
旅館もそれなりに繁盛し、周囲も事件のことを忘れかけた頃、急に旅館が2階部分を閉鎖することになったんだって。

周りは不振に思ったが、そこまで首を突っ込むことでもないと、別段気にすることはなかったそうだ。

そしてこの結果だ。

女将さんは、どこから情報を得たのか不明だが、あの2階へ続く階段に堂を作り上げそこで儀式を行っていた。
そしてその産物が俺達に憑いてきたという訳だが、ここがこれまでの事例と違うのだと坊さんは言った。
本来儀式を行った女将さんに憑くはずの子が、第3者の俺達に憑いたんだ。

考えられる違いは、女将さんは息子に臍の緒を持たせていなかったということ。
そこの村の人達は、昔からの風習で未だに続けている人もいるらしいが、女将さんはその風習すら知らなかった。
これは旦那さんが証言していたらしい。

そして妙な話だが、旅館の2階を閉鎖したというのに、バイトを3人も雇った。
旦那さんも初めは反対したそうだが、女将さんに「息子が恋しい。同年代くらいの子達がいれば息子が帰ってきたように思える」と泣きつかれ、渋々承知したそうなんだ。
これは坊さんの憶測なんだが、女将さんは初めから、帰ってきた息子が俺達を親として憑いていくことを知っていたんではないかということだった。

結局これらのことを俺達に話した後坊さんはこう言った。
坊「あなた達をあのおんどうに残したこと、本当に申し訳なく思います。しかし、私は真樹子さんとあなた達の両方を救わなければならなかった。
あなた達がここにいる間、私達は真樹子さんを本堂で縛り、先代が行ったように経を読み上げました。あのモノがおんどうへ行くのか、本堂へ来るのか分からなかったのです」

つまり、俺達に憑いてきてはいるが、これまでの事例からいくと母親の女将さんにも危険が及ぶと、坊さんはそう読んでいたってことだ。

俺は、別に坊さんが謝ることじゃないと思った。
それにこの人は命の恩人だろ?と思ってBを見ると、肩を震わせながら坊さんを睨み付けて言ったんだ。

B「納得いかない。自分の息子が帰ってくりゃ人の命なんてどーでもいいのか?」

坊「・・」

B「全部吐かせろよ!なんでこんな目に遭わせたのか、それができないなら俺が直接会って聞いてやる」

B「旦那さんだって知ってたんだろ?それなのに何で言わなかったんだ?」

坊「○○さんは知らなかったのです」

B「嘘つくな。知ってるようなこと言ってたんだ」

坊「この話は、この土地には深く根付いています。○○さんが知っていたのは伝承としてでしょう」

坊さんが嘘を吐いているようには見えなかった。
だがBの興奮は収まりきらなかったんだ。

B「ふざけんじゃねーぞ。早く会わせろ。あいつらに会わせろよ!」

俺達はBを取り押さえるのに必死だった。

坊さんは微動だにせず、Bの怒鳴り声を静かに聞いていた。
そして、
坊「この話をすると決めた時点で、あなた達には全てをお見せしようと思っておりました。真樹子さんのいる場所へ案内します」
と言って立ち上がったんだ。

坊さんの後を付いて、しばらく歩いた。本堂の中にいるかと思っていたんだが、渡り廊下みたいなのを渡って離れのような場所に通された。
近づくにつれて、なにやら呻き声と何人かの経を唱える声が聞こえてきた。

そして、その声と一緒に、

バタンッバタン

という音が聞こえた。かなりでかかった。
離れの扉の前に立つと、その音はもうすぐそこで鳴っていて、中で何が起きているのかと俺は内心びくびくしていた。

そして坊さんが離れの扉を開けると、そこには女将さん一人とそれを取り囲む坊さん達が居た。

俺達は全員、言葉を発することができなかった。

女将さんは、そこに居たというか・・なんか跳ねてた。エビみたいに。うまく説明できないんだが。
寝た状態で、畳の上で、はんぺんみたいに体をしならせてビタンビタンと跳ねていたんだ。

人間のあんな動きを俺は初めてみた。
そして時折苦しそうにうめき声を上げるんだ。

俺は怖くて女将さんの顔が見れなかった。

正直、前の晩とは違う、でもそれと同等の恐怖を感じた。

呆然とする俺達に坊さんは言った。
坊「この状態が、今朝から収まらないのです」

するとAが耐え切れなくなり、
A「俺、ここにいるのキツイです」
と言ったので、一旦外に出ることになった。

音を聞くことさえ辛かった。
つい昨日の朝に見た女将さんの姿とは、まるで別人の様になっていた。

そこから少し離れたところで俺達は坊さんに尋ねた。

憑き物の祓いは成功したのではないかと。

坊「確かに、あなた達を親と思い憑いてきたものは祓うことができたのだと思います。現にあなた達がいて、ここに臍の緒がある。しかし・・」

すると急にBが言ったんだ。
B「そうか・・俺が見たのは、1つじゃなかったんだ」

初めは何のことを言ってるのかわからなかったんだが、そのうちに俺もピンときた。
Bはあの時、2階の階段で複数の影を見たと言っていなかったか?

坊「1つではないのですか?」

坊さんは驚いたように聞き返し、Bがそうだと答えるのを見ると、また少し黙った。
そして暫く考え込んでいたかと思うと急に何かを思い出したような顔をして、俺達に言ったんだ。

坊「あなた達は鳥居の家に行ってください。そしてあの部屋を一歩も出ないでください。後で人を行かせます」

ポカンとする俺達を置いて、坊さんはそのまま女将さんのいる離れの方に走って行った。

俺達は急に置いてけぼりを食らい、暫く無言で突っ立っていた。
すると離れの方から、複数の坊さんが大きな布に包まった物体を運び出しているのが見えた。
その布の中身がうねうねと動いて、時折痙攣しているように見えた。

あの中にいるのは女将さんだと全員が思った。
そのままおんどうの方に運ばれていく様を、俺達は呆然と見ていたんだ。

ふとお互い顔を見合わせると、途端に怖くなり、俺たちは早足で家に向かった。

そこからは、説明することが何も無いほど普通だった。
家に行って暫くすると、別の坊さんがやって来て「ここで一晩過ごすように」と言われた。
そしてその坊さんは俺たちの部屋に残り、微妙な雰囲気の中4人で朝を迎えたというわけ。

次の朝、早めに目が覚めた俺達がのん気にめざにゅ~を見ていると、坊さんがやって来た。

俺達は坊さんの前に並んで話を聞いた。

坊さんは俺達の憑き祓いは完全に終わったと言った。
昨日言っていた通り、俺達に憑いてきたモノは一匹で、それは退化を遂げて消滅したのを確認したんだと。

俺達はそれを聞いて安堵した。

しかし坊さんはこう続けた。

女将さんを救うことができなかったと。

泣きそうなのか怒っているのか、なんとも言えない表情を浮かべてそう言った。

死んだのかと聞くと、そうではないと言うんだ。

俺はその言葉から、女将さんが跳ね回っている姿を思い出した。
(ずっとあの状態なのか・・?)

恐る恐るそれを聞くと、坊さんは苦い顔をしただけで、肯定も否定もしなかった。

女将さんの今の状態は、憑きものを祓うとかそういう次元の話ではなく、何かもっと別のものに起因してるんだって。
詳しくは話してくれなかったんだが、女将さんが行った儀式は、この地に伝わる「子を呼び戻す儀」と似て非なるものらしい。

どこかでこの儀の存在と方法を知った女将さんは、息子を失った悲しみからこれを実行しようと試みる。
だが肝心の臍の緒は自分の手元にあったわけだ。
こっからは坊さんの憶測なんだが、女将さんはこれを試行錯誤しながら完成系に繋げたんじゃないかということだった。
自分の信念の元に。そしてそこから得た結果は、本来のものとは別のものだった。

堂には複数のモノがおり、そこに息子さんがいたかは分からないと。

坊さんが言ってた。

この儀の結末は、非常に残酷なものでしかないんだと。
それを重々承知の上で、母親達は時にその禁断の領域に足を踏み入れてしまう。
子を失う悲しみがどれ程のものなのか、我々には推し量ることしかできないが、心に穴の開いた母親がそこを拠り所としてしまうのは、いつの時代にもあり得ることなのではないかと。

Bは、女将さんのこれからを執拗に聞いていたが、坊さんは何も分からないの一点張りで、俺たちは完全に煙に巻かれた状態だった。

俺達が坊さんと話終えると、部屋に旦那さんが入ってきた。
俺は正直ぎょっとした。

顔が土色になって、明らかにやつれ切った顔をしてたんだ。
そして、俺達の前に来ると泣きながら謝って来た。

泣きすぎて何を言ってるのかは全部聞き取れなかったんだけど、俺達は旦那さんのその姿を見て誰も何も言えなかった。

俺達に申し訳ないことをしたと泣いているのか、それとも女将さんの招いた結果を思って泣いているのか、どっちだったんだろうな。
今となってはわかんねーな。

その後、俺達は何度も坊さんに確認した。
これ以降俺達の身には何も起きないのか?と。

すると坊さんは困ったような顔をしながら「大丈夫」だと言った。

その後、坊さんの所にタクシーを呼んでもらって俺達は帰ることになった。

一応、昨日の朝俺を家まで運んでくれたおっさんが駅まで同乗してくれることになったんだが。

このおっさんがやたら喋る人で、それまでの出来事で気が沈んでる俺達の空気を一切読まずに一人で喋くりまくるんだ。

そんでこのおっさんは
「それにしても、子が親を食うなんて、蜘蛛みたいな話だよなぁ」
と言ったんだ。

俺達は胸糞悪くなって黙ってたんだけど、おっさんは一人で続けた。

「お前達、ここで聞いた儀法は試すんじゃねーぞ。自己責任だぞ」

そう言って笑うんだ。

俺達の気持ちを和らげようとして言ってるのか本気でアホなのかわかんなかったけど、一つ確かなことがあった。

俺達は、坊さんに真実を隠されて教えられたんだ。

儀の方法は、その結果と一緒にこの地に伝わってるんだ。

このおっさんが知ってて坊さんが知らないはずないだろ?
そう思うと、これだけの体験をさせといて、結局は大事なところを隠して話されたことにすげーショックを受けた。
坊さんを信用していた分、なんか怒りにも似たものが湧き上がってきたんだ。

タクシーが駅に着くと、おっさんが金を払うと言ったが俺達は断った。

早くこの場所から逃げ出したい、その一心だった。

坊さんが「大丈夫」と言った一言も、全部嘘に思えてきた。

それでも俺達には、あの寺に戻る勇気はなくて、帰りの電車をただただ無言で待つことしかできなかったんだ。

ーーーー

その後、帰って来てからは、なんともない。
まあ、なんともないからここに書き込めてるわけだけど。

「もう2度とあの場所へは行かない」
3人で話してると必ず1回はその言葉が出てくるくらい、俺達にとってトラウマになった出来事だったんだ。

あと、Bはあれから蜘蛛を見るのがどうもダメらしい。
成長過程のアイツの姿を見てるからね。

俺はと言うと、今は普通に社会人やってます。
若干暗闇が苦手になったくらい。
人間のど元過ぎれば熱さ忘れるって、あながち間違いじゃないかもしれないな。

本当の本当に後日談なんだが、その話を残りの友達2人に話したんだ。
2人とも俺達3人の様子を見て、一応信じてはくれたんだけど。

でもそいつらその後に、興味半分で旅館に電話を掛けてみたんだって。(最低だろ)
そしたら、電話に出たのは普通のおばさんだったらしい。

そいつら俺達に言うんだよ。女将さんか確認しろって。そんで、後ろでカラスが異様に鳴いてるって言うんだ。
絶対無理だと思った。女将さんが無事でも無事じゃなくても、俺にはその後を知る勇気なんか出なかった。

タラタラ書いて正直すまなかった。
真相といっても的を得ない内容だったかもしれないが、ご勘弁願います。
これがありのままっす。オチなしですが。

長々読んでくれてどうもありがとう。

【洒落怖】I峠の旧道

579 :トンネル:2006/02/15(水) 20:18:43 ID:szSFanCc0

オカ板初めてですが兄貴から聞いた話をひとつ。 
兄貴が話を聞いた先輩が実際に体験した話らしい。 
うろ覚えなんで変なトコがあったらスマソ。 

兄貴の先輩(ここではAさんとでも)が友達(BさんCさんDさん)とBさんの家で飲んでいた。 
時間も十二時を回ったころ、やることもなくなってきて暇になっていたときにCさんが「暇だし肝試しにいかねぇ?」と提案した。 
もちろんみんなも反論なく了解し、AさんとBさん、CさんとBさんと分かれて車に乗り込み、まず近くのコンビニに行き、軽くお菓子を食いながら何処に行くか話していた。 
するとCさんが「いい場所がある。」と言い出してI峠のことを話した。

その峠のトンネルの中でクラクションを鳴らすと霊が見えるというなんともありがちな内容だったのだが、近場で、それに他に場所もなく早速I峠に向かった。 
車はAさんが運転し、助手席にBさんが乗り、二台目はCさんが運転し、Dさんが助手席に乗っていて、前を走るAさんをCさんが後ろから着いていく形でした。 
標識も出ていて特に問題もなく目的地に近づいていき、トンネルまで何事もなく来ました。 

トンネルに入る前に、左側に電話ボックスと白い乗用車が停まっていました。

 

583 :トンネル:2006/02/15(水) 20:46:54 ID:szSFanCc0

トンネルの中間ぐらいで停まると、二台ともエンジンを切った。
ライトが消え、エンジン音が消えると辺りは静寂と闇に包まれた。
そしてクラクションを二回、ゆっくりと鳴らした、反響した音が静かに消えていった。

「・・・なんか見える?」とBさんが聞いてきた。 
「いや、何も。」そう言って、Aさんはため息をついた。 
Aさんはエンジンを起動させ、後ろを見てみるとCさんもDさんも少し不満そうな顔をしていた。 
そのまま直進し、トンネルを抜けたところでふと左側に脇道があるのに気付き、なかなか雰囲気が出ていたのでそのまま脇道にそれて行き、Cさんもそれに続きました。

少し行くと古い感じのトンネルがあり、周りには草が生い茂っていた。 
Bさんは「ヤバそうやね。」といっていたが、Aさんはかまわずに車を進めていき、Cさんも続きました。 
トンネルの壁面は凹凸が激しく、かなり古いことがわかり、また中間地点でエンジンを切りました。

 

582 :本当にあった怖い名無し:2006/02/15(水) 20:43:13 ID:c3JYyif9O

○鳴峠マジヤバス

 

589 :トンネル:2006/02/15(水) 21:19:29 ID:szSFanCc0

>>582 辺り

後ろのCさんもエンジンを切り、また同じようにクラクションを鳴らしました。 
しかし、またも結果は同じでした。何も見えません。

「やっぱそうそう見えるモンじゃなかねぇ」とAさんは言うとすぐにエンジンをつけました。 
ライトがトンネルの中を照らしました、見えるのは壁一面の顔、顔、顔・・・。

Aさんは絶句していました、全てこっちを睨んでいる顔をただ見るだけでした、Bさんも全く同じでした。 
何秒たったかわからない、AさんはようやくBさんに話しかけることができました。 
A「おい・・・、何が見える。」 
B「顔・・・。」 
A「あれは・・・。」 
B「怒っとる・・・。」 
A「あれは・・・。」 
B「泣きよる・・・。」 
後ろを振り返ると、CさんとDさんも壁を見つめるばかりでした。

Aさんはようやく我に返るとこれはヤバイと思い、すぐさまトンネルを抜けました。 
抜けてすぐ二台は停まり全員車から降りトンネルの話をしました。

やはりみんな同じものを見ていたそうで気味悪がり早く帰ろうということになり、車に乗りました。 
車に乗り、エンジンをかけると奇妙な感覚に襲われました、道に見覚えが無いはずが、何故か見覚えあるのです。 
冷静に考えてみると、確かにここは最初のトンネルに入る前の道だったのです。 
後ろを振り返ると、電話ボックスと乗用車が停まっていました。 

後日調べてみると、どうやらAさんが行ったのはI峠の旧道らしいです。

しかし、旧道は塞がれて絶対に車が通れるはずなかったのです。 
最初に行ったのは新道で新しくできたものらしいです。 
乱文ホントにすいません・・・OTL 

スレ元:死ぬ程洒落にならない怖い話しを集めてみない?121

【洒落怖】列車事故

564 :本当にあった怖い名無し:2006/02/15(水) 16:05:40 ID:SbJ6jOLB0

うちの塾の講師から聞いた話なんだが・・・ 
既出中の既出で有名どころの話なんだよね 
でもそいつの脚色がなかなか面白かったので載せておきます

とある雪国の話 
その日、3日に一度の列車が出ていた 
故郷に帰る者、都会に行く者 
様々な人を乗せ列車は運行を続ける 

一面銀世界の雪の草原 
一線の線路が敷いてあり、そこを列車が轟音を鳴り響かせながら走っていく 
キィィィー 
列車はまるで大猿の断末魔のような高い音をあげとまった 
乗客ははてなという顔をしながら外を見る 

そこには中年の車掌さんが何かを探しているのかのような素振りで 
あたりをフラフラしていた 
なにかのトラブルであろうか?まあその内走り出すであろう 
乗客はひとまず自席につく 

それから三十分 小一時間 
まだ列車は止まったまま動かない 
流石に客を待たせている
私は早く目的地に行かなければ
俺は急いでいるのに 
一部の客が立腹し不満を漏らしている

 

565 :本当にあった怖い名無し:2006/02/15(水) 16:06:33 ID:SbJ6jOLB0

客はまた窓を覗いてみた 
そこにはまだフラフラしてる車掌さんがいた 
何かを探しているのかな 
客は窓越しから車掌を呼んでみた 
すいません もう少し待ってください 
車掌は手を振りながら合図した 
客は不審に思い列車から外に出てみた 

すいません 車掌さん 一体どうしたのでしょう?できることがあれば手伝いましょうか 
客は車掌の元へと寄った 
お客さん 待たせてもうしわけない 実はですね 先ほど何かをはねてしまったみたいなんです 
車掌が困った顔でいうと客は驚いた顔をした 
ほほぉ それはなんですか?動物かなにかですか?

車掌は少し間をためた 
えぇ そのようです はねてしまったままでは申し訳ないので せめて亡骸を見つけて葬ってやろうと思いまして 
客はあたりをチラチラ見渡す 
そうなんですか それでは私も一緒に探しますが いいですね? 
車掌は足元をみて言った 
えぇ それがですね・・あなたの足元をみてください

客は自分足元 つまり列車の下を見た 
客の顔は一気に青ざめた 
こ これは・・・動物なんですか? 

 

566 :564:2006/02/15(水) 16:07:07 ID:SbJ6jOLB0

そこにあったのは血だった 
しかい量は半端が無く 
犬や猫 兎や狐の類ではないであろう程の多量さ 
真っ赤ではなくドス黒く まるでアメーバのようにドロッとしていた 
そしてそれの主である亡骸は付近には見受けられない 
一体どこに ・・・ 

客と車掌は残りの乗客に事情を話した 
熊でもひいたのでは? 
この辺りには狐と兎しかいない 
それではなにをひいたのですか? 
もしかしたら 人間かもしれないんだ 
車掌の口からこの言葉が出た時点で客全員の顔は青ざめていた

乗客と車掌は手分けしてそのはねた人間であろう 亡骸を探し始めた 
あ あ あったぞおおおお 
中年男性の悲鳴に近い声が鳴り響いた 
車掌及び乗客は囲むようにして集まった 

そこには人間の腰から下があった 
ジーパンを穿いていて大方男であろう 
車掌乗客はふるえながらも慌てながら上半身の捜索を続けた 

自責の念に押された車掌は 少し奥の林の方へと進んでいった 
車掌はうしろからなにかの視線を感じた 
うしろむくとそこには男性がいた 
しかしおかしい その男性は子供の背丈よりも低い身の丈であった 

 

567 :564:2006/02/15(水) 16:09:31 ID:SbJ6jOLB0

車掌はかたまっていた 
その男性には下半身がなかったのだ 上半身だけ 腕で立つようにしていた 
あの いま列車とぶつかってしまったようなのです それから痛みは感じないのですが どうも調子がおかしい 
上半身だけの男性は普通に口を利いた 

車掌はかちこちの石のようだったがとたんに狂った猿のようになった 
林の奥へ 奥へ 奥へ 全速力で逃げた 
車掌が後ろ向くと 
まってくださいよ~ なんでぼくの下半身がないのですか?ねぇ? 
上半身の男が腕だけで車掌の足に追いつく程の速さで駆けてきた 
うわぁぁぁぁ 
車掌は走るのをやめ すぐ近くの樹に登った 
するとその上半身も樹の枝をぐっとつかみながら登ってきた 
うわぁぁぁぁ うわぁぁぁぁ 

車掌はそのままショックで死んでしまった 
その男性も 樹にぶら下がったまま出血多量で死んだ 

液体も瞬時に凍る氷点下の世界 
血が凍り 即死を免れたが それが招いた悲しい事件であった 

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【洒落怖】食欲

197 :食欲:2006/02/07(火) 16:24:11 ID:idRi9tr/0

キャンプブームの頃だった。 

私達は友人と2人で割りと空いている所を歩いていると40代位の2人の男性に「火はありませんか?」と声をかけられた。」
煙から変な匂いがしていて気になったが、話みると2人は兄弟で、東京から来たという。
私は理由もなく2人とも好きにはなれなかったが、友人は兄の方と楽しげに話していた。

暫くすると友人が「怖い話をしない?」と言ったが私は「余計寒くなる。」と乗り気ではなかったが流れで話す事になった。 
すると兄の方が、こんな話を始めた。 

小学4年の時、都心から引越して来た時に体験した話です。 
タナカくんという々学年の友達ができました。 
毎日一緒にいるうちに気付いたのですが、タナカくんの体にはどこかしらにアザがありました。 
「どうしたの?」と聞いても「何でもない」と笑って答えるだけ。

でも毎日のように聞こえるお母さんの「このクソガキ」や「死ね」という怒鳴り声などで薄々は知っていました。 
多分、虐待されていたのでしょう。

ある日、救急車の音がして外へ出てみるとタナカくんが担架で運ばれてました。 
坊主頭には黒く固まった大量の血がついてました。 
お母さんは「弟と喧嘩して壁に頭をぶつけた」と説明していました。
タナカくんの弟は無表情で立っていました。

お母さんは魔女みたいなワシ鼻の先が話すたびにプルプルと揺れてました。 

 

198 :食欲2:2006/02/07(火) 16:39:18 ID:idRi9tr/0

数ヵ月後、タナカくんは退院しましたが頭を打ったせいなのかいつもと違った行動をとり僕を驚かせました。

それは例えば、野原で一緒に遊んでいると突然しゃがんでバッタを美味しそうに食べたり、公園の鯉を捕まえて頭から食べたりというものです。 
その頃から会う度にタナカくんは「何か」を食べており弟がいつも食べ残した「何か」を埋めていました。

気味が悪かったですが、病気だからと仕方なく遊んでました。 
しかしさすがにもう嫌だなと思った事があります。

それは、家で「福笑い」をした時でした。 
それを見てタナカくんは「おいしそうだな」とつぶやいたのです。
それから段々、距離を置くようになりました。

そんな時、事件が置きました。 
タナカくんはお母さんの大きなワシ鼻を食べてしまったのです。 
当時、団地の周りはマスコミが殺到していましたから嫌でも耳に情報が入りました。 
タナカくんは酔っ払って眠っているお母さんの鼻を「復讐だ」と叫びながら噛み切って、その鼻をフライパンで焼いて食べたそうです。 

と、いう話だった。 
焚き火が「バチン」とはぜる音の後に友人が「それでタナカくんはどうなったの?」と兄に聞くと「施設に入ってから消息不明」と私の顔を見た。

火のせいなのか、タナカくんが「何か」を食べている時のように見えてしまった。 
息が止まる感じになり急に怖くなった。
思わず友人に「トイレに行かない?」と言うと今まで黙っていた弟の方が「一緒に行こうか?」と言ってきたので体が固まってしまった。

友人が明るい口調で断り2人で来た道を戻った。 
トイレに入ると寒気がひどくなり、帰りたいと話すと友人も同意見で兄弟を置いて車に乗ってしまった。

帰り道に考えていると、さっきのタナカくんの話は自分自身の話なのではないだろうか、あの焚き火から変な匂いがしていたがアノ兄弟は何を焼いていたのだろうか。 
少し時間が経つとバカな妄想だな、と笑いそうになった。 
が、友人の話を聞いてまた寒くなってしまった。

「いや~、『大きな瞳だね。おいしそうだ』なんて面白くない冗談の後にアノ話は気味が悪かったね」と。

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【洒落怖】とある絵描き

20 :本当にあった怖い名無し:2006/02/06(月) 20:02:31 ID:sUSs2coR0

19世紀末、どこの国かは知らない。 

路上で客に依頼された絵を描く、絵描きとして生計を立てている一人の男が居たそう。 
同じく絵描きとして生計を立てている女は、その道で大成し男よりもお金を持っていました。 

その女に顧客を取られていってしまうので、男はついに彼女を恨み始めました。

その時のその国では、相手が死ぬ様子を絵にして描き、その絵を家に飾るとその相手に呪いがかかるという何とも信じがたい呪いが流行っておりましたので、男は便乗してその呪いの儀式を行いました。
相手のお好みの死に方を選べてしまうそうです。
但し、その絵は鮮明で綺麗な絵でなくてはいけないそうです。

絵描きとしての力量に自信があった男は、その女が国軍に強姦され焼き殺されるという何とも酷い絵を、 
40ページにも及ぶスケッチブックに描いたそうです。 

 

21 :本当にあった怖い名無し:2006/02/06(月) 20:03:30 ID:sUSs2coR0

数日後、その女の元に国軍の兵隊がやって来て、自分の似顔絵を描くように依頼したそうです。

女が描き終えて兵隊に渡すと、兵隊は気に入らなかったのでしょうか。
「似ていない!」と紙を破り捨て、彼女は男が導いた通りの死に方をしたのです。 

翌日男の元に、国の警察がやって来ます。
「ちょっと本部まで来なさい」と言われるがままに男は本部にやって来ました。そこで待っていたのは厳しい取調べと拷問。

男はまったくワケがわかりませんでしたが、聞いてみました。「私が何をしたというんですか?」
取調べを承っていた男はこう切り返してきました。
衝撃的な言葉でした。 
「あなたは絵描きさんの彼女(名、S)を強姦して焼き殺しただろう。何と酷い。お前はもう死刑が決まっているのだよ」

男は、自分ではないと必死に弁明しました。実際は国軍の兵士が手にかけたから、らしいです。 
しかし、動機もハッキリしていたので、男は翌日、絞首刑に処せられました。 

 

22 :本当にあった怖い名無し:2006/02/06(月) 20:04:37 ID:sUSs2coR0

実はあの日、偶然にも絵描きの彼女が男の家に、ある用事があってやって来たのです。

その時、窓からたまたま彼の部屋の中を見てしまったのです。
というか見えてしまったのです。

半狂乱になって笑い声をあげながら自分の死に行く姿を描いているあの男を見つけてしまったのですから。
翌日、彼女の家にやって来たのはあの男でした。

彼女も呪いの方法を知っていましたから。 

スレ元:死ぬ程洒落にならない怖い話しを集めてみない?121

【洒落怖】6つの目

恐らく「社内」⇒「車内」だと思われます。

 

194 :本当にあった怖い名無し:2006/02/07(火) 16:09:16 ID:idRi9tr/0

その日の私は確かに夜勤明けで疲れていた。
午前5時半、社内はガラガラにすいていたので人掛けソアfに腰を降ろした。

私はぼんやりと車窓の景色を眺めながら、正月などの予定を考えていた。 
気がつくと、途中から彼らが目の前に座っていた。 
国籍不明、3人の白人。男性。 
いつ座ったのか私の意識の中にはない。

3人ともよく似ていた、痩身。透き通るような白い肌、撫で付けられた金髪。大きなブルーの瞳。 
薄い唇。うっすら生えた口髭。 
彼らは一言も言葉を交わす事なく3人並んで行儀よく腰掛けていた。

私の関心はすぐに彼らから逸れ、また窓の外の景色に移った。 
暫くして急に強い視線を感じて、私はその方向を見やった。 

 

195 :本当にあった怖い名無し:2006/02/07(火) 16:09:49 ID:idRi9tr/0

先ほどの3人の白人の内、左端の1人がこちらを見ていた。 
いや、性格には見ているわけではない。彼は目を閉じているのだから。
目を閉じた状態で、まっすぐこちらに顔を向けているのだ。

目をつぶった顔と真正面に向き合うというのも変なものだ。 
「見られてる」 
何故かそう思った。そんな事は有り得ないのだが。

肉の薄い目蓋は全く無表情にツルリと眼球を覆っている。
マツゲも短いから本来目のあるべき所を粘土で塗り潰したような感じだ。

男の顔は死顔に似てるな、と思った。 
そう思うとなんだか気味が悪くなって、私は男から社内広告へと目を移した。

再び強い視線を感じた。 
目を向けると、今度は3人とも目をつぶってこちらを見ていた。
いや、見ているはずはないのだ。3人とも目をつぶっているのだから。

分かっていても無償に居心地が悪い、3つの死顔に囲まれているような気がする。
目蓋を突き抜けて、こちらの心を見透かされているように感ずる。

私はないはずの視線から逃げるようにして席を横にずらした。 
気を紛らわせようと、私は鞄から文庫本を取り出して読み始めた。

突然、車体がガクンと揺れた。その拍子に何気なく彼らの方に目をやると・・・揃って同時に、こちらに顔を向けた。
目をつぶったまま。

見えてるのか?いや、偶然だろう。
車体が揺れたので首の向きが変わっただけだ。
たまたま、その方向に私が。。。

私はもう一度、席を替えてみた、6つの目は相変わらずピタリと閉じられているのだ。 
文庫本を読む。
文章が全然、頭に入ってこない。

ガランとした社内を静かに、重苦しい時が過ぎて行った。 
恐る恐る顔を上げて盗み見ると・・・ 



196 :本当にあった怖い名無し:2006/02/07(火) 16:11:35 ID:idRi9tr/0

3つの顔が、並んでこちらを向いていた。 
「見られている!」 
瞬時にそう確信した。
無論、彼らの目は閉じられたままだ。
それでも彼らは目を閉じたまま私を見ている!

全身に悪寒が走った。と同時に、キーとブレーキ音が車体を軋ませる。私は思わず文庫本を取り落としていた。 
その瞬間、3人の白人は笑い出した。
歯を見せてゲラゲラと笑い出した。
相変わらず目を閉じたままで。

ドアが開いたのを幸い、私は駅名も確かめずにあたふたと車外へ飛び出した。 
後ろを振り返らなかった。 
だって、もしあの3人の白人が窓越しにこちらを見ていたら余計に怖いではないか。 
目を瞑ったままで・・・。

あれは一体なんだったのだろうか? 
私は寝ぼけていたのではない。 
今でもありありと3人の笑い顔を思い出す事ができる。

特に最後の瞬間に見た彼らの歯は忘れようもない。 
彼らの歯は茶色く変色し、一本一本が小さく、しかも尖っていた。 

スレ元:死ぬ程洒落にならない怖い話しを集めてみない?121

【洒落怖】チャット友達

485 :本当にあった怖い名無し:2006/02/14(火) 14:26:08 ID:XWI7n9mGO

数年前、チャットで仲のいい2人と毎晩のように喋ってた。 
1人はA子。ノリがすごくいい。笑いのセンスもあってボイスチャットでいっつも爆笑の渦。 
もう1人はB子。おとないしくしっかりした感じの子。 

ある日。その日も3人で他愛もない話で盛り上がっていた。 

A子のある意味暴走してる下ネタでB子も苦笑しながらも和気あいあいと談笑。

 

486 :本当にあった怖い名無し:2006/02/14(火) 14:35:01 ID:XWI7n9mGO

それから数日後、とある事情でA子の家に1人で泊まりがけで遊びに行くことになった。 

女の家に泊まりがけ。
それだけ聞けば最高だが、俺は全くもって行きたくなかった。

なぜならA子は重度のメンヘラだったから。
どうしても行かないといけなかった理由は割愛。 

部屋に入ったとたん、その異様な雰囲気にたじろいだ。

部屋にはミッフィーやキティの人形で溢れかえっており真っピンク。 
床は男でもってここまで散らかさないだろうというほど散らかっていて、 
色んなところにナイフやらメスやら注射器やら訳わからん薬が転がっていた。 

一泊して朝。起きると布団が血まみれ。予想に違わずA子の腕からのものだった。 

 

487 :本当にあった怖い名無し:2006/02/14(火) 14:45:36 ID:XWI7n9mGO

一刻もはやく逃げ出さないとやばい。 

そう感じた俺は取ってつけたような理由で予定より早く帰った。(ほんとは二泊する予定だった) 
帰りの電車の中ではずっと混乱しててとにかく早くだれかに聞いてほしかった。 

帰りついてパソコンを立ち上げて、自動で起動するメッセンジャーを見る。 

インしてる友達はB子1人だった。動揺していたが冷静になり、冗談混じりでB子に事の顛末を伝えた。 

「A子の家言ったらさあ、さんざんだったよw 
適当な嘘ついて逃げるように帰ってきたw」 

B子「うわ~最悪だね」 

「でしょ~。参ったよ」 

B子「うん、ほんと最悪。最低だねアンタ」 

「え?」 

普段アンタとか言わないしとにかく意味が分からなかった。
もしかしてB子もメンヘラーだったのか?やっちゃったな~くらいにしか思わず。 

とその瞬間A子がインした。俺がドキッとしたと同時にすかさずウィンドウが開き、 

A子「ふ~ん」 
B子「アンタ」 
A子「逃げるように」 
B子「帰ったんだ」 

スレ元:死ぬ程洒落にならない怖い話しを集めてみない?121

【洒落怖】母親の遺言

181 :本当にあった怖い名無し:2006/02/26(日) 04:40:59 ID:zOPsrN/tO

結構長いです 

三日前に母親が亡くなったんだが、その時母親から変な話を聞かされた 

今から三ヵ月程前に母親が職場で体調を崩し救急車で病院に運ばれた 
病名は食道癌、もうあまり長くないと母とおばさん(母の姉)に告げられたそうだ 
病名は受験を控えた俺に影響を与えぬ為、疲労が原因でしばらく入院するとだけ教えてくれた 

特に重い病気じゃないと知り俺は母親を放って受験勉強に明け暮れていた 
母は俺が中一の時に父と離婚したので家では俺一人だけの生活だった 
飯等はバイトの給料でたてたり、おばさんが飯を作りにきてくれたりしてた 
ちなみに親父は二年前に同じく食道癌で亡くなった

 

182 :本当にあった怖い名無し:2006/02/26(日) 04:41:53 ID:zOPsrN/tO

母が入院してた三ヵ月の間に見舞いに行ったのは三回だけだった 
一回目は母が入院した初日 
いつも仕事で疲れイライラしてる母は俺とまともに話す事があまりなかった為少し緊張したのを覚えている

母が「勉強頑張ってるの?」と小学生の時によく見た優しい笑顔で話し掛けてくれた 
一気に緊張がとけた俺は志望校の模試判定が低かった事や学校の事を話し始めた 
母親は「だったら勉強頑張らないと」「小さい頃からやれば出来る子」等と 
ここ最近の母親とは思えないぐらい優しく励ましてくれた 

久しぶりに母親と会話を楽しみ二時間ぐらい経った頃に外が暗くなってきたので帰ることにした 
母親には「近い内にまた行く」と言ったが勉強とバイトの両立が忙しく結局全く行かなかった

 

183 :本当にあった怖い名無し:2006/02/26(日) 04:42:52 ID:zOPsrN/tO

そして受験が終え、久しぶりに病院に行った 
母親が異常に肌白く凄く痩せていた

もうその時は頭が真っ白になり呆然とした 
「病気良くないの?」と心配そうに母に聞くと 
母親は半泣きになりながら自分は癌だと教えてくれた 
いきなり突き付けられた現実にショックを受けた、もう泣きそうだったがとにかく我慢してた

「直らないのか?」と聞くと「ごめんね」と優しい笑顔で返答した 
「生活費は○○がアルバイトして稼いでもらわないと困るけど 
大学のお金はちゃんと銀行にあるから心配しないで」と言ってきた

もう正直そんなのどうでもよかった 
とにかく母の安否だけが心配でずっと呆然としていた

 

184 :本当にあった怖い名無し:2006/02/26(日) 04:44:35 ID:zOPsrN/tO

そんな中母がいきなり変な事を言い出した 
「お母さんは呪われているの」と言ってきて俺は?状態だった

母は続ける「お父さんが昔、女の人を傷つけて、女の人が死んじゃったの」 
親父が母と離婚したきっかけは親父が逮捕されたから 
何故逮捕されたかは未だに知らないが、恐らくその死んだ女性と関係あると思う 
「だからお母さんは死んじゃうけど○○は大丈夫だから」

全く意味がわからず色々聞いても何も答えてくれず「大学頑張りなさい」しか言ってくれなかった 
最後に「お婆ちゃんのお墓に行ってお参りしなさい」 
「もう病院にはきちゃ駄目。お母さんは○○と今日会えて本当に嬉しかった」 
「電話はするから心配しなくて大丈夫」

本当に何がなんだか全くわからず色々考えながらその日は病院を後にした



185 :本当にあった怖い名無し:2006/02/26(日) 04:46:19 ID:zOPsrN/tO

翌日から母親とは毎日電話をしたが、やはり病院にはこないでいいと言われた 
電話では弱っていく自分を見てほしくないと言ってたが・・・ 

で、三日前におばさんから電話が入り危篤状態だからすぐに病院にきなさいと言われ 
即刻病院に行ったがもう手遅れ 

最期の顔を見たかったので遺体を見せてくれと頼んだが 
おばさんに「あんたが見てきたお母さんじゃなくなってるからやめなさい」 
と言われ見せてもらえなかった 
病室にすら入れさせてもらえなかった 

おばさんに母からの俺宛に書いた手紙を貰った 
内容はこんな感じ 
「この手紙を見たら直ぐにお婆ちゃんのお墓参りに行きなさい」 
「お母さんの葬式には出たら駄目」 
「お父さんのお墓参りはしちゃ駄目」 

これってどうなんですか? 
呪いとか全く知識ないが手紙に書いてある事をしなければどうなるんですか? 
まだお婆ちゃんのお墓参りはしてませんが 
近い内にするつもりです 

スレ元:死ぬ程洒落にならない怖い話しを集めてみない?122

【洒落怖】○○さんですか?

324 :本当にあった怖い名無し:2006/02/28(火) 03:03:28 ID:LvtyXBa50

遅まきながらこのスレの存在を知ったので、3年前の夏に起こった出来事をまとめてみました。

本当に会った事を順序立てて書くので、ドラマチックではないかもしれないけど、とても不思議な体験でした。 
ちなみに、僕はオカルト好きですが霊感はないと思います。
それでもあんな声を聞いたのですから、あの場はかなり特別なものだったんだと、今でも時々思い出します。 

まとまらず長文になってしまいました。ごめんなさい。

3年前の夏。
2ちゃんのオフ板で馴れ合った仲間で、軽井沢の別荘に泊まりに行こうという話しになりました。 
別荘は軽井沢と言っても北軽井沢で、長野県ではなく群馬県にあります。 
東京を出て、途中遊びながら別荘に着いたのは夕方。別荘の狭い風呂に入るより、温泉に行こうとういう事になり、2台の車に3人ずつ乗って、長野側とは逆に群馬側の温泉場へ30分ほど車で移動しました。
温泉に浸かり、別荘までの帰り道に事件がありました。 

先頭の車は僕の運転で別荘までは信号を右に曲がるだけでほぼ一本の山道。
ちょっと腕に覚えのある僕は調子に乗ってかなりのハイペースで飛ばしてしまいました。 
途中、女の子4人乗りの車がノロノロと走っていて、強引に追い抜きました。 

その後、かなりきつい左カーブがあり、きれいにコーナリングできず車がぎくしゃくとしました。
最初からそのくらいきついカーブだとわかっていれば減速も追いついたのでしょうが、コーナー侵入の雰囲気より、奥がかなり急なカーブになっていて、予測が出来ませんでした。 
その後もハイペースで信号まで飛ばし、角のコンビニの駐車場へ入って後続の車を待ちました。 
コンビニはもうとっくに閉店していて真っ暗。
1分、2分。。時間ばかりが過ぎ、仲間の車は一向に来ません。
「事故ってないよなぁ?」なんて冗談を言っていたら、途中追い越した4人組の小型車がノロノロと。。

その時内心(やばいかな。。)と思いましたが、次の瞬間、確信しました。

 

325 :本当にあった怖い名無し:2006/02/28(火) 03:07:20 ID:LvtyXBa50

その小型車の4人が、みんなこちらをジッと凝視して目で追っていたのです。 
山あいで圏外な携帯電話を、だましだまし何度も掛けなおしながら、大急ぎで来た道を戻りました。
途中やっと電話がつながり、「どうした!?」と問いかけると不明瞭ながら「やっちゃった。でもなんとか大丈夫」と聞こえて電話が切れてしまいました。

やはりあの急カーブでした。曲がりきれなかった車は反対車線に飛び出し、ガードレールにぶつかってまた自分の車線まで飛んで斜めに止まっていました。 
幸いにも乗っていた3人は運転手も含めて傷はなく、助手席の子が足を軽くうったぐらいで済みましたが、車は大破。
自走できませんでした。

女の子達を僕の車にのせ、男4人が外で対応に追われました。
出来るだけ近い自動車整備工場に連絡をつけ、レッカーしてもらう約束をとりつけました。
そこで気が少しゆるむと、その場所、事故を起こした場所がとても薄気味悪い場所だという事にやっと気が付きました。 

その場にいた4人を僕、事故った車の持ち主A、かなり霊感が強いらしく、神経質な面もあるB、分析するほどの知識はないが霊的感度がいいらしいCと名付けます。 
やっとレッカーの話しがまとまったころ、Bがかなり怯えているのに気づきました。
「はやくここから離れた方がいいよ。。」たしかに薄気味悪い場所でした。

基本的に車道に街灯はなく、真っ暗な舗装された山道で、急カーブの頂点に我々はいました。
車3台分くらいの内側のスペースに、壊れた車、僕の車、我々が立っていました。 
そのコーナー内側は山に繋がっていて、上には金網で覆われた無人っぽい変電施設のようなものがあり、緑色の街灯でぼやっと無機質な金属の大きな箱が浮かび上がっていました。 
かなり大きなその施設の他は木々が生い茂り見通しは利きません。 
コーナーアウト側にはガードレールがあり、車がぶつかった後が生々しく残っていて、ガードレールの向こうは真っ暗でまさに吸い込まれるような闇でした。

行き交う車も少なく、とにかくレッカー車が早く来て欲しいと願うばかりでした。

 

326 :本当にあった怖い名無し:2006/02/28(火) 03:10:23 ID:LvtyXBa50

その場にいた我々を恐怖させたのはそのシチュエーションもそうなのですが、圧倒的に音の要素が多かったと思います。 
まず山の中腹の施設からは絶えず「じーーー」っという音がすごい音量で放たれていて、少し離れた人の声が聞こえないほどでした。 
そして反対側の闇からは川の流れる音がこれもかなり大きく聞こえてきました。

B「気分が悪い。川が怖い。。ここやばいよ」 
僕「川の音、でかすぎないか?見える?」 
C「見えない。。本当に向こう川あるのかな。。」 
A「寒くなってきたね」 
川を見たくなったので車から懐中電灯を取り出し、一番霊感が強いBに行っても危険はなさそうか?と聞きました。
「うん。。平気かなぁ。。気を付けてね」そういわれて僕は道路を渡たりました。 

ガードレールの向こうを懐中電灯で照らすと2~3m下に草むらが広がっていて、10mくらい向こうにかすかに川が見えました。
ぞっとしました。
あんな遠くの川の音がこんなに響いてくるものなのか?明らかにこれまでの常識を覆す音量です。

そんな事をその場でみんなに伝えると、Bがジッと違う場所を見ているのです。 
僕「あっちに何かあるの?」 
B「。。うん。。いる。。見えないけど。。なにかいるように感じる」 
それはカーブが始まる場所にあるカーブミラーでした。 
僕「いってみてもいい?はっきり見えたら教えて」 
B「。。」 
川を覗き込んでいた場所から10mほど事故現場から離れていくと、カーブミラーのところまできました。
山の中腹にある施設を照らす緑色の光はもう消えかけ、ガードレールの向こうの闇と同化しそうなどほ暗いです。

そこからみんなの方向を見たり、カーブミラーを懐中電灯で照らしたり、見渡したりしました。 
ガードレールの向こうからはやはり川の音が迫るように聞こえていました。その闇、まったく何も見えない所を見続けていると、闇の中にも濃淡ができて、それがうごめいているように見えてきます。
急に怖くなって元いた場所に戻ると、Bの顔はもう真っ青になっていました。

 

327 :本当にあった怖い名無し:2006/02/28(火) 03:12:13 ID:LvtyXBa50

みんな「おいB!顔真っ青だぞ!」
B「。。」

みんなの勧めでBも車で待機させました。
Bが座席に座ってドアを閉めると、ウィンドーを下げて僕を呼びました。
B「あぶないよ。。川から上がってきてる。。あとね。。山の草むらからもジッと見てるやつがいる」 
ぞっとしながらも草むらを見渡してみました。

僕「。。見えないな。。確かに胸騒ぎのする。。落ち着かない場所だけど」 
B「黒いやつらだよ。。陰だけみたいな。。」 
僕「もうちょっと待ってレッカーが来ないなら一度別荘まで往復しよう。」 
車から離れると残りの2人の顔も血の気が引いてます。 
C「もうなんかヤバイよ。。ここにいちゃ行けない気がする。。」 
僕「僕もそう思う。定員オーバーだけど一旦別荘に行くか?」 
A「おれ残るよ。5人で帰った方がいい」
そんな事を話し合っているとき、ふいにその声が聞こえたのです。あまりにも明瞭でしかもだんだん声がこちらに近づいてきたので、てっきりレッカー車が到着して、その運転手に話しかけられたと勘違いしました。

その声は、 
「。。。○○さんですか?」 
声のする方へ振り返ると、Bが目を見開いて立っているだけでした。

レッカー車も、来訪者もいません。僕は「いま声がした?」という言葉を飲み込みました。
それをBに言ったら、Bに先入観をあたえてしまうと思ったからです。
我慢して、じっとしていました。
二人の間に重苦しい空気がが流れました。

B「いま。。話しかけられたよね?」
自分だけが聞いたのではない安堵と、やはり自分は聞いてしまったんだという恐怖の両方で、背中に電気が走りました。 
僕「。。うん。。なんて聞こえた?」 
B「はっきり聞こえなかったけど。。何か聞かれた?ような。。」 
どうやら僕ほどはっきり聞こえなかったようです。
僕「男?女?」B「おんなかな。。」僕「僕ははっきり男に聞こえた」B「なんて?」僕「名前を呼ばれたけど。。名前の部分が聞き取れなかった」 
B「名前呼ばれたんだ。。返事しなくて正解だったんじゃない?」僕「。。。」 
もう限界だと思い、その場を離れようとしたらレッカー車が到着しました。

それからはとてもスムーズに事が進み、数分後にはその場所から離れる事が出来ました。



328 :本当にあった怖い名無し:2006/02/28(火) 03:13:33 ID:LvtyXBa50

翌日、車を運んだ修理工場へ処分について話し合いに出かけました。

僕は昨夜、別荘に戻ってからみんなで話し合った通り、それとなく地元の人の情報を引き出そうとしました。 
僕「事故はおおいですか?」「あそこはおおいね。他の場所は雨とか霧の時多くなるけど、あそこだけはそういうの関係ない」 
僕「あの場所、薄気味悪かったんですけど」「ああ、あそこは良くないね」 
声を聞いたとか、変な陰がなんて事は言わなかったのですが、興味深い話しが聞けました。

そこの道は以前まっすぐだったそうなのです。それを電気施設を作るために道も、そして川も、カーブさせて作り出した場所なのだと。

スレ元:死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?122